迷子 ページ18
『…しまった、何処だここ』
じりじりと日差しが暑く照りつける8月某日、Aは万事屋銀ちゃんで働く従業員として、迷い猫探しに参戦していた。
手元の写真に写る純白の毛並み。駆け出した猫を無心に追いかけ続け、やっとこさ捕まえたところで、彼女は己の状況を知ったのである。
キョロキョロと辺りを見回すも、全く心当たりがない上に、道を聞ける人もいない。
暢気ににゃーにゃー鳴いている猫を抱え、取り敢えず歩みを進める。
携帯電話なんて便利道具が持てるくらい金があるなら、稼げる仕事につけたならば、彼女は万事屋でバイトなどしていない。今すぐ転職したいというのが彼女の望みである。
『全く…にゃーにゃー鳴いて可愛い子ぶってもね、お前のせいで今迷子になってるんだからね』
言いながらも、撫でる手は止まらない。彼女は猫派である。
「なんでェA、猫と会話するなんて。ついに頭がいっちまいやしたかい」
声のした方を見ると、屋根の上に、この暑いのに黒いベストをとズボンを着て腰に刀を差した、真選組一番隊隊長、沖田総悟が立っていた。
『なんでそんなとこいるんですか沖田さん』
吐かれた皮肉より、そんなところから話しかけられた事に驚きを隠せなかった。
「たまたま通りかかっただけでさァ」
『たまたま通りかかったって、真選組って屋根の上を歩くのが普通なんですか?』
「まさか。そんな野蛮なことすんのは、あんたんとこのクソチャイナだけだろィ」
酷い言われようだ。
というかじゃあ今そこに立っているアンタはどうなんだ。お前もクソチャイナなのか。
心の中で色々と突っ込みをするAをよそに、栗毛の男は屋根からそのままの姿勢で飛び降り、高さを感じさせぬ着地を決めた。
さらりと、髪が揺れる。
「で?」
『で?って?』
「アンタはどうしてこんなところにいるんですかィ」
『猫を探してたら迷いました』
「猫ぉ?」
『ほら、この子』
白い毛の猫をずいっとつきだしてやる。
猫はあくびでもするように、腑抜けた鳴き声でにゃあと鳴いた。
「迷い猫を探してたら迷子になったってか、ミイラ取りじゃねぇんだ。Aもバカだねィ」
『バカとはなんですかバカとは。まだこの町に着たばっかりで慣れてないだけですよ!っていうか、そんなに言うなら案内してくださいよ。ここ、だぁれも人居ないんですもん』
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作者名:ひつじ | 作成日時:2020年4月18日 16時