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母が家の前に作ったらしい畑は、ぷっくりと膨らんだ線香花火みたいな丸くてきらきらと輝くスイカでいっぱいになっていた。
冷蔵庫にも詰め込まれたそれは6等分に切り分けられ、縁側で足を伸ばす私の口に運ばれていく。
みーんみんみん…と木霊するセミの鳴き声を呆けたまま聞いていれば、後ろから声をかけられた。
「A、こんなとこでのんびりしててええの？」
口角に微笑が浮かんだ母親の視線は向かいの幼馴染の家に注がれている。
ずっと会えていなかった
大凡見当はつくが何年も連絡の取れていない幼馴染なんだ、そんな気軽に会えたものではない。
『突然会いに行ったら驚かれない？』
「まさか！しゃお君もAに会えるの楽しみにしてたわよ」
…田舎というのは不思議なもので、日が昇る頃の出来事が噂として広がり、その日が沈む頃には周知の事実になっていたりする。
つまり3日も前に母にした帰省の連絡が広まるのなんて、お裾分けとして向かいの家にスイカを持っていくより容易なのだ。
──
丸々と太ったスイカを両腕で抱え、質量でもありそうな重たい日差しを受けながら慎重に足を進める。
白飛びした道を超えればすぐに見覚えのある表札が目に入り、スイカを片腕で抱え直してチャイムを押した。
はーい、と聞こえた声は随分大人びており、最後に聞いた彼のそれとはどうしても一致しない。
『隣のAです、突然すみません。えと、しゃお君、いますか？』
「いませーん、てな？重かったやろ、すぐ行く」
バタバタと小さな物音が聞こえたかと思えば、思い出の中のシャオロンを可憐なまま大きく、逞しく、そして洗練したような姿で玄関から現れた。
「Aおかえり。
スイカありがとな。暑いやろし入ってええよ」
おかえり、なんてあまりに優しくて眩しい笑顔で言うもんだから動揺してしまう。そんな二人を太陽はじりじりと照らし続けていて、会うのを躊躇っていた自分がちっぽけで馬鹿馬鹿しく思えた。
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作者名：鈴木産 | 作成日時：2022年6月5日 12時
