来訪者 ページ3
「……痛い、痛いよ」
「助けて、ここから出して」
暗い空間に響き渡る無数の声。Aは、意識だけでその声を聞いていた。
誰なの、この声は？ 何故私に助けを？
しかし回答は出ないまま、それは終わりを告げた。
「……夢？」
無数の声がAに助けを求める、という夢を見た。
先程の夢は、何を暗示していたのか。
朝から考えるのは億劫だったので、取り敢えず後回しにし、彼女は身支度を整えた。
朝食を済ませ、皿洗いを終えると同時に、来客を告げるベルが鳴った。
濡れた手を拭き、返事をしながら玄関に行くと。
「立香さん」
「久しぶり、元気にしてたA？」
立香が背後に英霊であるシャーロックを従えて、笑顔で玄関に立っていた。
2人をリビングに通し、向かい合って座る。
朝から一体、何の用だろう？
先に口火を切ったのは、シャーロックだ。
「この朝から押し掛けて済まない。と言うのも、君に伝えて置きたくてね」
シャーロックの表情から察するに、余程の案件と思える。
どうぞ、と促したAを見つめ、彼は言う。
「魔法界の闇の陣営が、とうとう本格的に動き出した。
昨日、ロンドンの一部が襲われたと、魔術協会から報告が来た」
伝えられた内容に、Aは目を丸くする。
「本当ですか、それ？」
「うん、本当。昨日魔術協会の人が私の家に来てさ、呉々も気をつけて下さいって言いに来たんだもん」
立香がシャーロックの代わりに答える。
真剣でピリピリした空気を出すシャーロックとは打って変わり、立香は緊張感など欠片も無い雰囲気を醸し出していた。
そんな立香に、シャーロックはため息を吐く。
「立香、もう少し危機感を」
「だっていずれ奴らが来るんだったら、いつまでも力んでても疲れるだけじゃん。
なら、せめて明るくしといた方がさ」
「全く君は……済まない、A。要件はそれだけだ。
ロンドンが襲われた事は、知らなかったみたいだなやはり」
シャーロックに、はいとAは応じる。
彼女は魔法界の新聞や、この世界での新聞を取っていないのだ。
必要な情報は、大概ギルガメッシュや慎二が教えてくれたから。
だがその2人は、今この場にはいない。
再開出来るかも分からない。
沈んだ表情を出した彼女に、立香は気を遣ったのか「じゃあ、もう帰るね」と立ち上がる。
Aはそんな2人を見送るべく、一緒に玄関まで行った。
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作者名：カフェラテ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/shazam03271/
作成日時：2021年10月19日 17時
