蒸留酒入りチョコレヰトの小夜曲【twst】 (ページ47)

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顔の傍を泳ぐ小魚を軽くつついたり、豊かに枝を伸べる珊瑚の並木を潜り抜けながら、一同は透き通った水の中を進む。

闇の鏡を通じて移動した地点からほど近い場所に、アトランティカ記念博物館は庇を構えていた。

さながら海底宮殿の如く豪奢な装飾が施された門前では、矛を携えた人魚たちが不審な動きをする者を逃すまいと目を光らせている。

初めて人魚を目にした一年生たちは、興味深そうにその姿を繁々と観察する。

一方で、昨晩の時点で既に写真パネル奪取のための作戦を画策していたアンナは、

「……皆さん、手筈は分かっていますね？」

「ああ。お前がアイツらを『撹乱』させてる隙に、あたしたちが写真を奪う…… だよな？」

「状況が状況ですから、くれぐれもコニーさんは『シノさんの傍を離れないで』くださいね。」

分かっている、とばかりに力強くコニーが頷く。

最終確認を終え、作戦を開始すべく切り込み役のアンナがロザリオを構えた。

……刹那、

「あ～♡ きたきた、小エビちゃんたち。」

「ごきげんよう、みなさん。いかがです？海底の世界は。」

視界の外から降り掛かった対の影と聞き覚えのある声に、一同は素早く身を翻す。

その直後、全員の意識に凄まじい衝撃が走った。

「「「っ……！！？」」」

驚愕、歓喜、落胆、興奮。

あらゆる感情に翻弄され思考回路がショートを起こしたコニーは、はくはくと声にならない吐息を零しながら顔を真っ赤にさせ、半泣きでシノの背に隠れる。

翡翠色の体表に、腰より下から伸びる長い長い一本の尾びれ。

潜入直前の彼らを出迎えたのは、双生の半海魔だった。

見知った上級生の人ならざる姿に、ほぼ全員が度肝を抜かれ水中で立ち尽くす。

唯一彼らの正体を知っていたシノは、やっぱりお出ましか……！と顔を顰めた。

「あ、あんたら何だその姿は！？」

「何って、『いつもの姿』だけど？」

だってオレたち、人魚だもん。

人畜無害そうな笑みを浮かべ、さも愉快そうにフロイドが呟く。

だが、彼らの持つ鋭い爪や歯は、無害どころか天敵に値するその獰猛さを物語っていた。