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彼は拍子抜けした。
既にその頭の中では、人魚化する魔法薬の材料を どうやって調達するか考えていたせいで、続く返答が すぐに出てこない。
「確かに、アズールがコニーに やったことは許せねぇけどさ。
けど、だからって この件には無関係なお前まで 目の敵にするのは、流石にお門違いかなって気付いたんだ。
……だからさ、」
あたしと、仲直りしてくれないか?
懇願するような顔で 自分を見上げるシノの姿など、これまで一度も お目にかかったことのないフロイドは、
「い、いよ……」
「本当か? じゃあ、お前に頼みたいことが あるんだけど、いいか……?」
貴重な しおらしい シノを目の当たりにし、フロイドの矜持は簡単に崩れ去った。
こんな顔で見上げられて、誰が許さないって言えんの? と胸の内で独り言ちる。
だが そこに、彼女は 更なる爆弾を投下した。
「……あの、さ。仲直りの印に、あたしとハグしてほしいんだ。」
少しばかり頬を染めて 彼を見上げるシノは、もはや あざとい という言葉では表せなかった。
愛しさメーターの針を 右向きに吹っ飛ばされたフロイドは、顔を押さえながら ん"ん"っ……と呻く。
(オレの
余裕ある彼氏を演じていたいのに、彼女自ら その理性を崩しに来るのは反則ではないだろうか。
「だ、ダメか……?」
「……シャコちゃんってさあ、そういうとこ ホント ズリぃよね」
え? と目を見開くシノに構わず、彼は その小さな体を ぎゅうぎゅうと抱き締めた。
彼女の少し高い体温は、平熱の低いフロイドには心地いい。
シノの腕が自分の胴に回された瞬間、麻 薬のような多幸感が彼の脳髄を駆け巡った。
ああ、やっぱり彼女を手放したくなどない。手放せるはずがない。
「もし、シャコちゃんがアズールとの勝負に負けちゃっても大丈夫。
学園を追い出されちゃったら、珊瑚の海においでよ。
……人魚になって、オレと一緒に ずーっと海の底で暮らそ?」
「ああ、そうだな……」
彼は その耳元で、砂糖を どろどろに煮詰めて溶かしたかのように甘い声で囁いた。
一方で、フロイドの腕の中にいるシノは、口の形だけで何かを呟く。
「……でも、その必要は なさそうだよ」
声には出さず 唇だけを そう動かした彼女の目は、どこか虚ろな色をしていた。
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茨の國のぼっち(プロフ) - フォントから、ユニーク魔法から、文章から、全てにおいてセンスが良さすぎます!前章に引き続き、この章も楽しく読ませていただきました! (2021年1月17日 1時) (レス) id: 9a68fed22a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:擂糸 | 作成日時:2020年9月27日 12時