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「『契約』は“可哀想”だとか、そんな感情的な理由で他人が口を挟めるものじゃあ ないんですよ。」
つまり、一昨日お越しください……ということです。
打って変わって 険しい表情をしたアズールが、そう凄んだ。
……だが、
「だ、だったら……
だったら、自分も取引をします……!」
そう名乗りを挙げたのは、Aだった。
その大胆な申し出に、お前 何 考えてんだ!? と隣のジャックは 彼を問い詰める。
確かに、自分自身も契約を交わせば、要求を受け入れてもらう権利はAにもある。
しかし、これは そこまで見据えた上で仕掛けられた罠であることを、アンナは知っていた。
一度でも彼の契約書にサインしたら、待っているのは『最後にアズールが笑う結末』だけだ。
もし こちらの要求を通して 彼が得をするのならば、対等な取引ができたの かもしれない。
だが、今回 自分たちが求める条件は、アズールにとってマイナスにしかならない。
Win-Winな関係を築けないということは、とどのつまり。
今 この場で交わすであろう 契約は確実に罠であり、 後は骨の髄まで利用し尽くされる 未来しかない、ということだ。
「……ふぅむ。あなた方が僕と取引したいのは分かりましたが……
しかし困りましたねぇ。確かAさんは、魔法の力をお持ちでない。」
Aは 魔法に限らず、美しい声も 一国の王位継承権も持たない、所謂『普通の人間』である。
後見人も身分を証明するもの もなく、着の身着のままで この世界に迷い込んだ彼が 契約の担保に差し出せるようなものは、一つしかなかった。
「担保、だと?」
「例えば……
Aさんが管理している オンボロ寮の使用権、とか。」
ぴりっ……とVIPルームの空気が一瞬で尖る。
やはり、アズールが善意から 契約など持ち掛けてくるはずが なかったのだ。
彼は布石すらも使いこなす男である。
その巧妙な手口に、Aの表情も険しくなった。
「もちろん、Aさんとの契約で 叶えて差し上げられるのは、イソギンチャクの解放だけです。
エインズワースさんの声に関しては、ヴィーゲンさんかオノザワさんの どちらかから、別途で担保を預けて頂きますよ。」
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茨の國のぼっち(プロフ) - フォントから、ユニーク魔法から、文章から、全てにおいてセンスが良さすぎます!前章に引き続き、この章も楽しく読ませていただきました! (2021年1月17日 1時) (レス) id: 9a68fed22a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:擂糸 | 作成日時:2020年9月27日 12時