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その帰路にて、コニーは試しに喉を震わせてみようとした。
だが、空気だけが抜けていくばかりで、声らしい声は ちっとも出ない。
本当に声を奪われてしまったのか、実感する彼女は、自分がとんでもない状況に立たされていることには気付いていなかった。
アズールは、例の惚れ薬を『人間には効果てきめん』と言った。
それは裏を返せば、『人間ではない存在には効かない』という ことになる。
ここまで来たら、もはや説明するまでも ないだろう。
この薬は、人魚であるジェイドには 効果がないのだ。
もちろん、コニーはジェイドの正体など知る由もない。
アズールは それを知った上で、効果のない魔法薬を故意に彼女に掴ませたのだ。
薬を盛っても何も起こらなかった、偽物なんじゃないのか。
そう詰め寄られたら、彼は こう答えるだろう。
どなたに ご執心なのか お聞きしたのに、教えられないと 言ったのは あなたでしょう。
僕も まさか お相手が人魚とは思わず、人間用の薬を お渡しした だけのことです、と。
言うまでもなく、これは事故でも誤解でもない。
どんなに喚かれた ところで、もう彼女の声を返す気などない。
だが、彼と契約した時点で 既に自分が罠に嵌められていたことに、コニーが気付けるはずもなかった。
*
そして再び訪れた、山を愛する会の活動日。
部活はコニーとジェイドの唯一の接点であり、薬を盛るなら チャンスは ここしかなかった。
「……そう言えば、先日 お話しした 悩み事の件は どうでしたか?
僕たちで、貴女の お力に なれたでしょうか?」
こくん、と力なくコニーは頷く。
喉の調子が悪くて声が出せない、と彼女はジェイドに説明したが、もちろん彼は それが嘘であることを知っていた。
声を奪われた挙げ句に、恋心さえ叶えてもらえないなんて。
ああ、なんて愚かで可哀想な方なんでしょう。
ジェイドは密かに、愉悦と憐憫が入り混じった笑みを浮かべる。
だが、そんな彼ですら知らないことが一つあった。
コニーが声を投げ捨ててまで恋い焦がれる相手が、自分であるということだ。
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茨の國のぼっち(プロフ) - フォントから、ユニーク魔法から、文章から、全てにおいてセンスが良さすぎます!前章に引き続き、この章も楽しく読ませていただきました! (2021年1月17日 1時) (レス) id: 9a68fed22a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:擂糸 | 作成日時:2020年9月27日 12時