炭酸入りシトロナードの狂詩曲【twst】 (ページ9)

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珊瑚の海にいた頃から、フロイドが少女たちから向けられる視線は、大概が淡い憧れだとか仄かな恋情ばかりだった。

陸に上がってからも、それは変わらなかったはずである。

故に、あの親の仇と相対したかのような眼差しを向けられるなど生まれて初めてのことであり、彼にとってなかなか衝撃的な出来事だった。

仮にも女の子を揶揄(からか)って酷く怒らせてしまった、という自覚があるフロイドは、放課後の教室にシノの姿を探した。

案の定沈んだ顔で反省文を書いている彼女を見つけると、彼は物陰から彼女の机へそっとレモンキャンディを投げた。

包み紙に『ごめんね』と書かれたキャンディを拾い上げると、シノはそれを口の中に放り込んで早々に噛み砕いてしまった。

*

ただいま、とげんなりした顔で寮に戻ったシノを出迎えたのは、二人のルームメイトだった。

食卓で茶菓子を摘まんでいるのはコニーで、キッチンに立って夕食を拵えているのはアンナだ。

シノを含めた彼女たち3人が、今年度よりNRCが招いた試験留学生の正体である。

「随分遅かったわね。どうかしたの？」

「おや、ご存じないんですかコニーさん。何でも、あのリーチ兄弟の片割れを天球儀で殴って反省文を書かされたそうですよ」

アンナの耳がやたらと早いのは、彼女がかの兄弟のもう片方の片割れと同級に所属しているからだろうか。

はあ、と眉間に手を当てて深々とため息をついたコニーは、

「お願いだから他寮生に喧嘩売らないで頂戴……」

「……向こうが吹っ掛けてきたんだよ」

「売るのも買うのもやめてって言ってるの！」

彼女とはエレメンタリースクールの頃から交流があるコニーは、シノが一度箍が外れてしまうともう手が付けられない癇癪持ちだということをよく知っていた。

ただでさえ食えない連中が多いこの学園に特例として滞在しているのに、そう頻繁に流血沙汰を起こされたらたまったものじゃない。

まあまあ、と二人を宥めながら、アンナは冷蔵庫からジャグを取り出した。

透き通った水の中には、輪切りにされたレモンが数切れ浮いている。

「シトロナード冷えてますけど、水と炭酸どっちで割ります？」

私水割りがいいわ、と言うコニーを他所に、シノはいらないとだけ答えてすごすごと自室に上がってしまった。