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体温の低い人魚が人間の肌に触れると火傷してしまう、というのは流石に作り話だが、高熱に苦しむ今のシノに触れたら本当に火傷しかねない。
ひりひりと痛みが残るフロイドの手のひらは、僅かに赤く腫れていた。
何これ、人間って風邪ひいたら こんなに熱くなるの?茹で上がって死んじゃうじゃん。
ここで彼は、先ほど聞いたエースとジャミルの助言を思い出した。
人間は、弱っている時に自分に優しくしてくれた相手を好きになる、と。
「……これでホントにオレのこと好きになってくれんのかな」
疑いを拭いきれてはいないが、フロイドは再びシノの額に手を当てた。
じわじわと熱が皮膚を蝕んでいく感覚を、奥歯を噛み締めて堪える。
「…冷たい……」
気持ちいい、と呟いた彼女の表情が、心なしか緩んだ気がした。
己の献身が報われることを願って、彼は健気にも『手当て』を続けたのだった。
*
おはよう、と翌朝の教室でフロイドを待っていたのは、すっかり元気になったシノの、いつもの朗笑だった。
「昨日 見舞いに来てくれたんだって?
熱下がった後に お前が持ってきてくれたパエリア食ったけど、すげぇ美味かったよ」
「でしょでしょ。だってオレの自信作だもん」
ふと、シノはフロイドの左手に巻かれた包帯に気付いた。
火傷を負ってまで彼が自分に尽くしてくれていたことなど知らない彼女は、
「なあ、その左手どうしたんだ?」
「ん? ……ああ、昨日 パエリア作ってる途中に火傷しちゃったんだぁ。」
フロイドは、敢えて彼女に真実を伏せた。
ヒーローとは、危険に晒された美女を助けた後、本当の名すら告げずに颯爽と その場を立ち去るものである。
「そっか、なんか悪いことしちまったな。
パエリアの礼もしたいし、何か あたしにできることがあったら言ってくれよ」
買える範囲なら好きなもの ねだってくれて いいからさ、とシノは照れ臭そうに笑う。
「……何でもいいの?」
「財布の限界 越えない程度なら、な」
じゃあさ、とフロイドは口を開いた。
「オレと一緒に写真撮ってよ」
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茨の國のぼっち(プロフ) - いいお話すぎます!シノが風邪ひいた時のお話、フロイド君が健気すぎて泣きました!控えめに言って最高です。もっと伸びろ〜! (2021年1月17日 0時) (レス) id: 9a68fed22a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:擂糸 | 作成日時:2020年8月18日 11時