炭酸入りシトロナードの狂詩曲【twst】 (ページ34)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:23,575 hit

032. ページ34

「う"ーん……」

制服のまま水に落ち、プールの中で小一時間人魚に巻き付かれていたシノは、当然の如く風邪をひいて魘されていた。

ガチャ、と音を立ててノブが回り、そっと扉が開く。

好意を寄せる同級生の部屋を覗き込んで最初にフロイドが抱いた感想は、異様なまでに物が少ないということだった。

きちんと整頓されている、という以前に整頓するほど物が置かれていない。

備品の家具を除けば、目に付くのは鞄と勉強道具と傷の多いケースに入ったサックスぐらいだろうか。

いくら試験的な留学とはいえ、これはあまりに殺風景すぎる。

そんな無機質な部屋の中で一際フロイドの目を引いたのは、壁にかけられたコルクボードだった。

エレメンタリースクールから現在に至るまで、大勢の友人と共に写ったシノの写真が、所狭しとピンで留められている。

コニーやアンナ、そしてフロイドの知らない友達まで、シノが過ごしてきた時間がそのまま切り取られたかのようだ。

それらのどの写真にも共通しているのは、彼女がカメラのレンズに眩しい笑顔を向けていることだった。

「シャコちゃん、友達多いんだなぁ……」

男子校に誰より早く馴染んだ彼女の交遊が広いのは、火を見るより明らかだ。

だが、ぽつりと呟いた彼の表情には、僅かな寂しさの色が浮かんでいた。

不意に、うう……とシノがくぐもった唸り声を上げた。

熱に浮かされて苦しんでいるらしい。

「…凍ったイカも、スッパスパ……柔らかいトマトも…この通り……」

「……は？」

朦朧として、訳のわからない寝言を漏らすシノに、フロイドは肩の力が抜ける感覚がした。

眠るシノの傍らでセンチメンタルに浸っていたのに、どうしてこうも彼女は雰囲気をぶち壊しにするのが得意なのだろう。

その後ももにょもにょと言葉になっていない寝言を呟き続けるシノの顔を、フロイドが覗き込む。

そっとその額に触れてみれば、

「……熱(あ)っつ！！何これ！？」

手のひらを焦がす高熱に、フロイドはじゅっ、と音がしたような感覚すら覚えた。