炭酸入りシトロナードの狂詩曲【twst】 (ページ24)

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ひく、とシノの頬が引き攣る。

やはり地雷だったか、とフロイドは察したが、彼女は洗いざらい話す決心を固めていた。

「……いないよ。」

「え……」

「お前、『悪徳の街』のことは知ってるな？」

その名前には、フロイドも聞き覚えがある。

確か、薔薇の王国のすぐ隣に位置する小規模な都市国家だ。

小国ながらも優れた魔法技術で知られ、それで成功し財を成した者も多い。

……だが、

「知ってるけど…… でも、もう無くなった国なんでしょ」

現代魔法史で習った知識を総動員して、彼は答えた。

高度な魔法の叡智のほとんどは一部の貴族や豪商が独占し、大多数の市民は重税と圧制に喘いでいた。

そのうちに市民の不満は爆発し、数年に及ぶ大規模な内戦が起こったはずだ。

国の勢力を二分する内戦は当然の如く泥沼化し、もはや自国では収拾が付かないほどに広がった戦火は国中を焦土にしたらしい。

「その通り。国民の3人に1人を殺した争いは薔薇の王国の介入でやっと鎮圧されて、10年前に悪徳の街は崩壊した」

「……何でそんなに知ってるの」

元々、シノはあまり座学が好きではないはずだ。

実験のある錬金術や魔法薬学はまだしも、ただ座ってノートを取るだけの魔法史の授業では、彼女はいつも上の空で窓の外を眺めているのに。

その彼女がここまで悪徳の街の内情に詳しい、ということは、

「お察しの通り、そこがあたしの故郷だよ。
　物心ついた頃には、貧民街の路上で独りぼっちだったんだ。」

「え…… 親とか、兄弟は……？」

「さあな。顔も名前も、捨てられたのか死に別れたのかも判らない。
　ま、あんな落伍者の吹き溜まりじゃ、大して珍しくもない話さ」

まさか、とフロイドは耳を疑った。

何らかの事情で肉親と離別したのならいざ知らず、生まれてこの方家族と呼べる存在に触れたことがないなんて。

齢17にしてシノに課された天涯孤独という宿命は、彼女の小さな体にはあまりに重すぎる気さえした。