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翌日の放課後、フロイドはナイロンバッグとバケツを引っ提げたシノに遭遇した。
余った右手は、やや使い古されたデッキブラシをバトンよろしく くるくると回している。
「あ〜、シャコちゃんだぁ。ねぇねぇ、どしたの その荷物?」
「ん、フロイドか。そろそろ屋外プールの時期は終わりだから、最後にひと泳ぎしてから掃除するんだ」
自身の母校で水泳部に所属していたシノは、NRCに来てからも しばしば屋外プールを使用していた。
だが10月にもなれば それも難しく、彼女は今日の活動を最後に、来年のためにプールを磨きにいくところだった。
「シャコちゃん泳げんの?」
「舐めてもらっちゃ困るな、これでもTOC水泳部のエースなんだぜ?」
「……ふぅん。面白そーだからオレも付いてこーっと」
もちろん、フロイドにはプール掃除を手伝う気など毛頭なかった。
ただ、人間の泳ぎ方というものが気になったのである。
ヒレもエラもなく、水中では息すらできないのに、何故 人間は競技まで設けて水に挑もうとするのか。
小さな彼女が水を得た時、一体どんな動きをするのか眺めてやろう、と彼は目論んだのだった。
*
ドサ、と洗剤のボトルが入ったバケツやらデッキブラシやらをベンチに置いたシノは、ポンプ室の水の妖精に頼んでプールの給水栓を開けてもらった。
そして、泳げる程に水が溜まるのを待つ間、彼女はなんとフロイドの目の前でパーカーを脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを外し始めたのである。
「ちょっ、シャコちゃん!? 流石に そこで着替えるのはダメだって!」
まさか同級生のお着替えシーンに遭遇するとは微塵も予期していなかったフロイドは、両手で顔を覆い隠しながら必死で彼女の脱衣を制止する。
やれ指定暴力団だのインテリヤクザだのと囁かれる彼も、女体を前に興奮を隠せない 健全な17歳男児であることに変わりないのだ。
そんなフロイドを嘲笑うかのように、
「……何 期待してんだよ、バーカ。」
と脱ぎ捨てたワイシャツの下に、シノは既に色気もへったくれもない競泳用の水着を着ていた。
◇◇
TOC…
NRCと同じ法人によって運営されている女子校。
創立から日が浅く生徒数が少ないため、寄宿制ではなく全日制。
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茨の國のぼっち(プロフ) - いいお話すぎます!シノが風邪ひいた時のお話、フロイド君が健気すぎて泣きました!控えめに言って最高です。もっと伸びろ〜! (2021年1月17日 0時) (レス) id: 9a68fed22a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:擂糸 | 作成日時:2020年8月18日 11時