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「あれ、誰も居なさそう？」
「さすがにここまで来ないかぁ」
がさごそと室内を漁る音が聞こえる。倉庫の隅っこ、跳び箱の裏でシャオちゃんの膝の間に座り片手で口を押さえられている。ジャージ越しに伝わる体温とシャオちゃんの匂いが、どんどん心拍を上げていく。
「──耳、真っ赤やで」
『〜〜っ！！』
態とらしく囁かれた言葉にも大袈裟に反応してしまう。この状況がそうさせているのか、それとも心の奥底でじわじわと滲み出す何かのせいなのかは、分からない。
「居ないね、他探そっか」
「もう半分くらいの人は見つかってるらしいし、すぐ見つかるっしょ」
鬼役の生徒2人は倉庫を後にした。鈍い音を慣らして扉が閉められ、また暗がりと静寂が広がった。
「危なかったなぁ」と息を吐いたシャオちゃんは退いてくれるのかと思いきや、私の口に当てていた手を私の腰に回してそのまま私の肩に頭を埋めた。ふわふわとした髪の毛が首筋に当たって擽ったい。
『ちょ、ちょっと』
「──行くなよ」
『え？』
「……また離れるとか、言うなよ」
きゅ、と腰に回された手に力が入った。絞り出したように出された声は、聞き慣れていた高い声より幾分も低くて、少し掠れていた。
『……だって、仕方ないもん』
「それでも、行くなよ」
『私にだって、どうしようもないんだもん』
「……急に消えるわ、また居なくなるって言うわ、お前俺をどうしたいねん」
『……私だって、離れたくなんて無かったよ』
シャオちゃんと、ずっと一緒に居たかったよ。
再び溢れる涙は留まることを知らず、ぼたぼたとジャージに染みを作っていく。背中から包み込む体温が「……俺だって、離れたくなかったわ」と震えた声で呟いた。ぐりぐりと私の肩口に頭を擦り、冷たい雫が首元に当たった。
古びた倉庫の中でずびずびと鼻水を啜りながら泣きじゃくる2人の姿はさぞ滑稽なんだろう。
「……お前居らんと、つまら、んねん」
『そらそ、でしょ……』
「はっ……うざ……」
『……私の、人生の中で、1番楽しい瞬間だったよ、あの頃は』
「過去、形にすんなボケ……」
お互い詰まり詰まりで泣きながら話す光景は先程までの心拍の高まりとは違くて、あの頃喧嘩して泣いていた頃を思い出した。
私達の意志と裏腹に流れる涙と一緒に、現実なんて流れちゃえばいいのに。恋々とした気持ちが、距離なんて埋めちゃえばいいのに。
このまま、逃避行でも出来たらいいのに。
連れ去ってくれれば、どこだって行くのに。
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悠亜(プロフ) - すずらんさん» コメントありがとうございます！有難いお言葉光栄です……あまり派手な話ではないですがこの後もいろいろと2人の心境に変化が現れますのでそちらも是非見て頂けたら嬉しいです！ありがとうございます！ (2020年2月28日 9時) (
レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
すずらん(プロフ) - 何から言ったら良いのかわからなくて乱文になってしまうのですがコメント失礼します。好きです。心理描写がとても繊細で手に取るように分かりやすくて好きです。応援させてください… (2020年2月27日 9時) (レス) id: 14859b81d2 (このIDを非表示/違反報告)
悠亜(プロフ) - ユヅルさん» 前作からありがとうございます！前作との差分化を図るのが難しいですが、こちらもこちらで楽しんで頂けると幸いです！ありがとうございます！ (2020年1月19日 18時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
悠亜(プロフ) - さいさん» コメントありがとうございます！中々微妙な距離感ですが、どう近付いていくんですかね。私にも分かりません。嬉しいお言葉をたくさんありがとうございます！気長にお待ちください！ (2020年1月19日 18時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
ユヅル(プロフ) - わああああ！！前の作品も見させていただいてました…！！！相変わらずの文才…ほんとに尊敬します…！！更新頑張ってください！！ (2020年1月19日 18時) (レス) id: 0f65930547 (このIDを非表示/違反報告)
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