◇ 3 ページ25
「‥ばか‥‥ばか‥ばか、ばか、ばか」
よかった。
よかった。
無事でよかった。生きててよかった。
縁起でもないけど、そう思った。それほどまでに今日の翔さんは生気が無かったから。
役者としては百点じゃね?とおれの脳内翔さんがドヤ顔したけど、倒れたらマイナス百点だよ、と言い返してやった。
「‥‥‥そんな、‥いうこと‥‥ないじゃん‥」
おれの馬鹿の連呼に目を覚ましてしまった翔さんが、困ったように笑った。
その顔を見たら、涙を堪えることなんてできなかった。
「っうぅ、うう〜〜っ、」
「ちょっ、潤!どした!」
自分でもありえないくらいにボロボロ涙が出てきて、嗚咽も止まらない。あたふたする翔さんが体を起こそうとしたのを見て、こっちも自分では驚くくらい早くベットに押し戻していた。
「ばっ、かじゃ、ないのっ!ねててよ!」
「や、だって泣いてる‥」
「泣いてないっ!」
「泣いてるじゃん‥」
「泣いてない!!」
涙ボロボロ流しながら、泣いてない!と言い続ける俺に、翔さんが折れてくれた。わかった、寝てるから、とベットに体を横たえて、視線はこちらを離さなかった。
「‥‥‥ごめん。」
静かな部屋は、おれの嗚咽と鼻をすする音しか聞こえてなくて、そんな空気を破ったのは、翔さんのバツの悪そうな謝罪の声だった。
「言うこと聞かずに無茶した。ごめん。」
「そんで、怖がらせたよな、ごめん。」
「心配してくれてるの、ちゃんとわかってる、‥ごめん。」
わかってる。
そう、わかってるのだ。
仕事だからと頑張る翔さんを、止めることができないのをおれらがわかってるように、
おれらが心から心配して止めてくれるのを、翔さんだってわかっている。
でも、それでも仕事だからとやらなきゃいけないこともある。‥‥多分、おれだって逆の立場ならおなじことをしただろう。
「‥今日の晩御飯は、食べるよね。」
ぐす、と鼻をすすりながらそう聞いた。
「うん。何食べさしてくれる?」
優しい顔した翔さんが、それに応じる。
無茶する人に、心配してる人がいるんだよ、ってわかってもらうだけでも、力にはなれているのかもしれない。‥っていうのは、側の人間のエゴなのかもしれない、けど。
でも、こうして頑張りすぎる人を支えるのだって、意味があるのだ。
「病人には、おかゆしか作ってやんない。」
今日の晩御飯は、頑張った翔さんのためのお粥パーティーにしてあげる。
ははは、と優しい顔をして翔さんがわらった。
fin
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作者名:とことこ | 作成日時:2017年7月28日 14時