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誰もいなくなったリビングで、贅沢に過ぎていく休日のひとときを
大きな柱時計は刻み続ける｡
開けたままの窓から、欅の葉に雨粒が落ちて弾ける音が聞こえくる｡
二人に傘持たせて正解だ｡
今頃、傘が役に立ってることだろう｡
ぼんやりそんなこと考えながら新聞をめくった時
階段を下りてくる優雅な足音が聞こえた｡
｢あれ？
翔君だけ？
ニノは？｣
｢潤の買い物に付き合ってくれてる｡
前の学校で潤が使ってる英語の参考書が、今の教科書と合ってないんだって｡
……終わったの？｣
おれの言葉を瞬時に理解して、ふわりと緩む智君の鳶色｡
目尻を下げて、あの頃と何も変わらない笑みを浮かべると智君はゆっくりかぶりを振る｡
｢ううん、まだまだこれからだよ｡
でも一段落ついたから｡
ニノのおにぎり食べに下りてきたの｡｣
白い布巾を取ると
自分の席に用意された握り飯とこぶ茶に、智君は嬉しそうに眼を細めた｡
｢うわ、美味しそう♪
それにさすが俺のニノ!
ちゃんと分かってくれてたんだなぁ｡
最近俺、こぶ茶にハマってんだよ〜｣
上機嫌で湯呑にこぶ茶の粉を入れてる智君を、頬杖しながら見つめる｡
｢………初音｡｣
1,000年以上ぶりに耳にしたであろう名に、智君の動きが一度止まる｡
でもその後は何事もなかったかのように
その人は湯呑にポットのお湯を注いだ｡
｢さっき出かける前、ニノにだけ初音の話をした｡
ニノは初音のコト、知ってていいと思ったから｡｣
｢翔君がそんなお喋りだとは知らなかったよ｡｣
｢アレ？
喋んない方がよかった？
別に隠してるワケでもないんだろ？
ねぇ｡
なんでニノに自分のコト話してやんないの？
あなたが色々教えてあげないから、あの子が寂しがってんの、ちゃんと分かってるんでしょ？｣
おれを見ずにこぶ茶を啜りながら、智君は仏頂面で答える｡
｢喋ってどうなるの？
今を生きるニノにとって、別におれの昔話なんて関係ないじゃん｡
そんなの、必要ないよ｡｣
しとしとと降り続ける雨音に溶ける、智君の柔らかな声｡
耳触りのいい、心地よい声を聞くだけで心が和むから不思議だ｡
｢……昔話に意味がないって言うのなら、今のハナシをしようか｡｣
湯呑の中で揺れる液体を見つめていた鳶色が
正面に座るおれをゆっくりと捉えた｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
