【Episode1】「にのみや荘へようこそ」01.いつもの朝の光景/N ページ2
それは中学三年生の初夏｡
15の誕生日を迎えた翌日
紫陽花の花から雨粒が零れ落ちる梅雨の肌寒い日に
オレにとって唯一の身内だったじいちゃんが死んだ｡
小さい頃に事故で両親を失ったオレにとって、たった一人味方だった人だ｡
母さんと父さんが恋しくて
一人で庭にある
じいちゃんは必ず大きな手でオレの頭を撫でてくれた｡
“和也、泣かんでいい｡
なんにも心配せんでいい｡
お前には迦楼羅様のご加護がある｡
どんな災厄からも、迦楼羅様はお前を必ずお守りして下さる｡”
“かるら…さま？”
“そう……｡
漆黒の翼を持ち、大空を自由に飛び回り、それはそれは徳の高い者しか会得できない法力を使う、仏を守護する御遣いだよ｡
いいかい？
それでもお前に危険が及ぶ時は、今から私が教える呪文を唱えるんだよ？
………、………、………、………｡
なぁ？
おもしろい呪文だろう？”
“うふふ…、うん！”
じいちゃんが話してくれた荒唐無稽の御伽話は、
凄く面白くて｡
でも小さかったオレにはちょっぴり怖くて｡
ドキドキと心臓が躍るくらいいつも夢中にさせてくれたから
どんな寂しさも忘れられた｡
そんなじいちゃんが15で死んで、オレはその日から天涯孤独となった｡
身内といえばじいちゃんしかいなかったオレを、
引き取ってくれるような親戚はどこを探しても見つかる筈もなくて｡
いよいよ児童養護施設に入るしか選択肢がなくなった時
オレの前に『後見人』を名乗る、ソイツが現れた｡
・
｢ヨシ…！
これで出来た…と｡｣
かちりとガスの火を止める｡
ほわほわと湯気が立ち上る鍋の中には
野菜がたっぷり入った出来たてのポトフ｡
アイツはそんなに食う方じゃないから、朝食ならこれで充分｡
時刻はもうじき朝の７時｡
そろそろアイツらも起きてくるかな｡
じいちゃんが死んでから、オレにとっての『日常』が
いつもの、慌ただしい一日が始まる｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
