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決意を胸に ページ50

深夜の住宅街。
静寂を邪魔しないよう、静かに車が止まった。

「……こちらでよろしいのですか?」

「ああ、すまない寺井さん。こんな時間まで…」

「いえ、私は宜しいのですよ。

それよりも、先程の話にお嬢様は、絶対に後悔をなさいませんか?こちらの事は、この寺井1人でも……」

「大丈夫だ」

強くそう告げて、車のドアを閉じる。

「……考え直すのであれば、今しかございません。
お嬢様の選択している道は、茨の道です。

命を落とす可能性も有るのですよ?」

「寺井さん」

夜風が、髪を揺らす。


そういえば、初めてアイツにあった時も、こんな風が吹いていたな。



心配そうに見つめる寺井の目に、今の自分にできるだけ優しく

虚勢を張って、微笑んだ。

「もう、決めた事だ」

「左様ですか……
ならばこの寺井、お嬢様の事を全力でお支え致します」

「……ありがとう」

遠ざかる車を、静かに見送る。

秋は夜長。きっと、朝までまだ時間はある。


今の自分は、ちゃんと笑えているのだろうか。


「…そうだ、約束……」

来月の12月7日、私の誕生日だから、みんなで集まって飲もうって………言ってたのにな


ふっと、自嘲的な笑顔が顔に出る。


「ごめん……約束、まだ果たせそうにないや」

誰に言うでもなく零した言葉は、秋風に攫われる。


慣れた手つきで鍵を取りだし、鍵穴を右へ回す。
ギィ…と音を立てて空いた扉の中に入り、後ろ手で鍵を閉める。


習慣(これ)も、いずれ消えるだろう。

寝室へ向かい、ベッド横に置かれた棚を開いた。
大事にしまわれていた、トランプケースを取りだし、じっと見つめる。

「先生……」

きっと、ものすごく怒られるだろう。

(それでも、お守りとして持つ事を、許してください)

少しだけ抱きしめ、もう一度しまう。
棚の中から、封筒と便箋を取りだし、ボールペンを握る。

少し躊躇ったが、握り直して「退職願」と記した。

そういえば、体育祭前に必死に掃除をやってたのは、これを書かないためだったってのに

今ではそれを、自分の意思で書いている。

ぱたり、と落ちた水滴でインクが滲んだ。
続くように落ちるそれを手の甲で拭って、適当な理由をしたためる。


「くそ………頑張れ…」

最後に、名前を書記して封筒へ入れた。
心が揺れないように、手早くカバンの中に突っ込んで、遠くへほおり投げる。


先生だけじゃない、きっと、ゼロやヒロや班長、萩原、松田………皆に怒られるだろうな


「…警察のままじゃ、動きにくいんだ」


皆を守るためなら、自分の事はどうでもいい。
公的に無理なら、違法手段をとる。


「爆弾魔と、先生を殺した奴らは……私が捕まえる。」

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作者名:しゃ〜け | 作成日時:2022年12月28日 21時

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