第八話:蝶の舞う水槽 ページ8
悪魔の名前は高杉晋助。
一番最初に俺の手を掴んだ奴であり───俺を使い捨てた張本人。
そして今は、俺を地獄へ誘う悪魔である。
「くくっ・・・そんな
言葉とは裏腹に愉しげに口角を上げ、高杉はゆっくりと俺に近づく。嗚呼・・・またこの甘い匂いだ。噎せ返るほどの甘ったるい匂いが俺の周りをまとわりつく。決別したくても、しきれない───呪縛。
「・・・・・戯言を言いに来たなら帰れ。俺はお前に構ってるほど暇じゃねぇ。それに──」
「土方が呼んでるから・・・だろ?」
「なっ───!!」
途端、顎を掴まれ高杉と視線を無理やり合わせられる。黒光る緑の隻眼からは、嫉妬の炎が燻ってるようにも見える。
「・・・・・俺が拾った時、お前は俺と同じ眼をしていた。壊れていて、絶望に染ってて・・・・だが今のお前は、そんな様子はまるっきり無くなっちまった・・・・」
その言葉は、まるで俺はお気に入りの人形。木箱に入った愛でられ飾られるだけの都合の良い遊び相手──そうにも聞こえなくない事だった。
「なぁ、何処に行っちまったんだよ。昔の希美は」
「・・・・・・・」
俺は、何も言い返せなかった。
何せ高杉は、自ら命を絶とうとした俺を助けてくれた恩人だ。けれど、その先にあったのは優しい愛ではない。
執着ともとれる狂った愛。
そのせいで、俺は─────
「・・・・・・高杉」
俺は言う。その目は、残酷で冷酷な暴君の瞳をしている。
「昔の俺は死んだ。土方が俺の手を掴んだ時に、
これ以上、俺が掴んだ幸せを、俺が願った幸せを。壊そうとするな」
闇に惑ったような隻眼が一瞬見開かれたあとに、彼はまた元のように薄く怪しい笑みを浮かべた。
「・・・・・っははは。お前は本当に────変わんねェなァ・・・大切なモンの為なら自分を犠牲にする」
「・・・それの何が悪────っ」
言いかけた時、高杉は軽く触れるだけのキスをする。
意図が分からない高杉の行動に、目を見開く。
「・・・・・いずれ壊してやるよ、世界も、お前も」
高杉の瞳は、昔と変わらない。
絶望に染まり、闇に濡れた、狂気に溺れた、その瞳。
そして俺は、去ろうとする高杉にこう問いかける。
「なぁ、お前は今も俺が好きか?」
「あァ────お前の全てを壊したいぐれェに」
その言葉は、掠れて消えた
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