第十一話:赤薔薇の暴君 ページ11
「春咲さん!救急車呼びましたー・・・って春咲さんは!?」
「希美はあっちだ」
「あっちって────え」
走り来る俺に、異形は両腕を突き出して迎え撃つ。それを紙一重でかわし、線をなぞるかの如く異形を右の肩から袈裟斬りにするように、手刀で引き裂く。
どす黒い血のようなモノが白いブラウスや頬に返り血のように着く。だらり、と糸が切れたかのように、異形は地面に倒れ込んだ
「春咲さん・・・!副長も、春咲さんの援護を───」
「その必要はねェよ。むしろ巻き込まれるぜ」
それでも、片腕はまだ動いていて、這いつくばったままで異形は俺の片足を掴む───が、その腕を俺は躊躇なく踏み潰す。
「出来損ないが───俺の前に立つんじゃねェ!」
言って、異形を足の勢いだけで蹴り飛ばし、異形は壁にぶつかる。
その様子を見て、希美は息だけで異形に嗤う。
「なぁ、藤堂。あいつが呼ばれてる異名。なんだか分かるか?」
「・・・・・すみません、わからないです・・・」
「─────
「暴君・・・・」
「これで、逃げられねェ」
呟きは誰に対してではなく、ただ、俺自身に向けて言った。
俺は、永遠を求めた愚者を嘲るように見つめる。
死に抗い、最果てを求めた、夢。だがそれは、反転すれば欲望である。自然の条理から背いた、醜い欲望。或いは強欲。
俺の知り合いが言っていた。
星は古代においては不変のものと思われていた。でもそうではないことを今を生きる自分達は知っている。長く信じられていた天動説すら十七世紀に覆された。即ち─────星の輝きさえも、永遠では無い。
虚空から産まれ、そして盛大に終わりを迎える。
つまり────永遠なんて、この世界には存在しない。
そんな戯言を思い出して、俺は自分に嘲笑う。
そうして、俺は力を込めた。
「とっとと、失せろ」
ナイフに似た手刀は、人間だったものの胸を突き刺した。
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