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虐めていた奴らの上から見下ろしていた。俺の名前を呼ぶ声はわずかに震えている。
「伏黒君、なにして……」
俺の背中から差し込む夕日は、俺を影にして俺を見上げるAの瞳へ落ちている。
「なんでもねぇよ」
俺の下に倒れている奴らを踏みつけて、Aと同じ地面に足をついた。俺より背が低いAは変わらず俺の影の中にいる。
「なんでもないって……そんなわけ」
「Aには関係ねぇだろうが」
ぴくりと肩を揺らす。自分が思っているよりも遥かに突き放すような声が出ていた。
関係ないなんてどの口がほざくんだろうか。決して虐められていたやつを助けたんじゃない。先の現場を見て頭をよぎったのは目の前にいるこいつだというのに。その事実すら不快感へと繋がっていく。気が付けば手は固く握られて、自分の手のひらに爪が食い込んでいた。
「……ごめん」
Aは目を伏せた。きゅっと眉根を寄せて苦しそうに睫毛が震えている。何も分かってねぇのに謝んじゃねえよ。
「何に対して謝ってる?」
「え……?」
「ごめんって、何に対して?」
「それは、」
伏せられていた瞳はまた俺を見上げた。そこに映るのはぼやけた輪郭の俺だった。
「分かってねぇなら、」
「ねえ!!あ、ありがとう!!」
謝んなよ、と続けようとした言葉は遮られた。空気を壊すような感謝の言葉。俺を見上げていたAはその声のするほうへ目を向けた。俺もつられてそちらへ視線を寄こした。
「あいつら、いつも僕を虐めるんだ…今日だって、お金取られそうになって、君って強いんだね。あ、ありがとう、ほんとに……」
俺のもとへよろよろとした足取りで近づくそいつは自分のスクールバッグを抱えている。
「助けてくれて、ありがとう」
感謝されたくて助けたわけじゃないし、助けたつもりもなかった。
「別に、助けたわけじゃない。お前らみたいなのがいるから」
Aは。
奥歯をぐっと嚙み締めた。Aの視線が自分に向いているのが分かる。俺の原動力がAだということを理解したくなくて。自分でも嫌気がさしていた。
足を踏み出した。俺に感謝を述べたそいつの横を通り過ぎた。後ろからAの視線が突き刺さる。
善人だと、思われただろうか。
弱いものいじめを許さない、正義のヒーローのような。
自分はそれにほど遠い。こいつが虐められてようが別に構わない。ただ、その虐めによって負の感情が生まれること。それがどうしようもなく引っかかるのだ。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時