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お弁当を食べ終わって、また私は図書室に来ていた。昨日借りた本の続きを読もうと思って。しんとした空気が好きだった。紙のにおいとインクのにおい。何か別の外からの刺激を受けなければ、私はきっとまた昨日のことを思い出してしまう。



いつもなら呪霊の感情がずっと体の中をめぐるような、そんな感覚になる。それなのに、昨日は家に帰ってから思い出すのは伏黒君の目と、声と、手の感触だった。

『何を、見た』

ぼやける視界の中で伏黒君の目には光の粒が反射していた。フェンス越しに伸ばされる手。骨ばった大きな手のひらは、ぐんと私の肩を引き寄せていた。まるで私を引き留めるかのように。

何を見たかなんて、口に出せなかった。言ってどうなるわけでもないから。
伏黒君にとっては呪霊に意思なんてないのだから。


わからないよ、伏黒君には。


そっと自分の手を重ねたけれど、やはりその手は大きくて。私の手とはあまりにかけ離れている。弱い力でその手はすんなりと肩から外れた。

「戻ろう、伏黒君」

きっと彼は、まだ中学生だけれど、どこまでも呪術師なんだろう。
現実的で、頭がよくて。それなのに、引き留めるように私の肩をつかんで、何を見たかなんて聞くなんて。呪霊に意思なんてないといったはずなのに。彼はあの時、矛盾していた。


ずっとそんなことを考えている。きっと伏黒君は自分では気づいていないんだろう。私が何を見たかなんて伏黒君自身には関係のないことなのだ。



ふう、と静かに深呼吸をした。肺の中に図書室の香りを取り込む。乱雑に並べられた思考を頭の奥に追いやるように。


小説を手に取ってページを捲る。柔らかな紙を指の先でつまむ。活字は目を通して脳へと流れ込んでいく。そのまま思考を小説の中に落とし込みたかった。けれど背表紙に触れる片方の指先が、それを許さなかった。


そうだ、この本を取ったのも伏黒君だった。

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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません‪‪💦‬ (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時

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