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「…な、何を言ってるんだ、A」
「……悪魔が見せてくれたんです。あの日、村が燃えた日の記憶を」
神父が狼狽えるのが分かった。
一度吐いた嘘なら最後まで貫き通す努力くらいすればいいのに、と私はその姿を一瞥し、床に転がるロザリオの珠を爪先でこつんと蹴る。
「…神聖力が人より多く優れている私が、必要だったんですよね」
「……違う、それは…!」
「違う?どうして?だってあんなに…あんなに、幸せそうな笑顔で燃える私の家を見上げていたのに」
スマイルの記憶で見たあの表情を、きっと私は一生忘れないだろう。
栄光を手にする為ならば人々を殺す残忍な行為ですら厭わないその腐り切った性根も、私に見せていた仮面を被った優しい姿も。
そんな大好きな人に裏切られた、今日の事も。
「…一度も、赦そうと思った事なんてなかった。両親を殺した、村を焼いた悪魔がずっとずっと、ずっと憎かった」
「A、落ち着いてくれ…」
「でも、貴方に認めて欲しかったから!だから怒りも恨みも抑え込んで、ここまで頑張ってきたのに…それなのに!!」
何が神様だ、何が信仰だ。
誰よりも神に願い人々の為に〖救恤〗の心を持ち続けた私は、最初から神の手のひらの上にすら乗せられていなかった。とっくに、指の隙間をすり抜けていたのだ。
怒りで震える手を握り締める私に、神父は誤解だと口を動かし続ける。彼が馬鹿の一つ覚えのように保身の言葉を口走る度に、今まで積み上げてきたものが何もかも崩れ落ちていくようだった。
「誤解なんだ、そう、そうだ。お前は悪魔に騙されているんだよ…!」
「…騙されてる?」
私が、誰に。まさかスマイル達に?
思わず乾いた笑いがこぼれ、私は片手を短剣へ伸ばした。
たとえ相手が生きた人間であろうと、聖職者として私に敵う者は誰一人としていない。そうして神父の顔が恐怖に歪んでいくのがどうしようもなく愉快で、同時にどうしようなく虚しかった。
だって、もう既に彼にとって私は娘同然に育てた大切な子供などではない_________否、最初から違っていたのだと、そう思い知らされるようで。
鞘から引き抜いた短剣を持つのも随分と久しぶりだ。私はそれを後退りする神父へ向けながら、歪む視界に瞬きを堪える。
「駄目だよ、A」
その時、ふと視界が冷たい手に遮られ、動きを封じられてしまう。
ばさりと大きな羽根が羽ばたく音に、何故か酷く安堵を覚えた。
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クリパ好き - 神…() (2022年11月11日 10時) (レス) @page48 id: cf4801f795 (このIDを非表示/違反報告)
😊 - カッコよかったぜ!どんどん登場人物の考え方が変わっていくのがなんか綺麗で自然でなんかすごかった()完結寂しいけどおめでとう! (2022年9月3日 2時) (レス) @page48 id: 9df188f843 (このIDを非表示/違反報告)
Bearl - 完結おめでとうございます!それぞれの登場人物の描写が細かくって、読んでいてとても楽しかったです!小説の更新、お疲れ様でした! (2022年8月26日 10時) (レス) @page48 id: cd9603c5df (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - あいすすすさん» わ、気付いていただけて嬉しいです〜!!よろしければもう少々お付き合い下さい☺️ (2022年8月25日 16時) (レス) id: 17312d353f (このIDを非表示/違反報告)
あいすすす - 七つの大罪や美徳が好きなのでわくわくしながら読み進めていたら、夢主ちゃんの救恤と強欲の悪魔が館に存在しなかったのがここに絡んでくるとは!とても面白くて毎度楽しみにしています。これからも楽しみにしています! (2022年7月17日 8時) (レス) @page40 id: 8404f46a69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まめこ | 作成日時:2022年5月24日 20時