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「…それじゃあ、誰がやったって言うの?」
こんな事を考えたってどうしようもないのは分かっている。神に祈り、加護を授かる為に努力をした日々が無駄だったとも思わない。
しかし、本当に悪魔の仕業でないのなら______私の今までは、一体何だったと言うのか。
Nakamuは少し困ったように眉を下げ、それは俺にも分からないけどと首を振る。
「あ、でも、スマイルなら知ってるかも」
「……スマイルが…」
「うん。ほら、この辺り見張ってたって言ったでしょ?人間観察が趣味だって自分で言うくらいだし、多分知ってると思うよ」
確かに、彼は私の事もよく知っている様子だった。幼い頃から私を見ているのならば、そうなってしまった経緯を知っていても何ら不思議ではない。
教会から村があった場所までもそう離れてはいないので、Nakamuの言う"見張り"が行き届いていた事は間違いないだろう。
眠る前よりも少し軽くなった体と、それに反して些か重くなってしまった心を抱えたまま、私はソファから立ち上がりスマイルを探す為談話室の扉へ向き直る。
「……Nakamu?」
「…まだ、怒ってる?」
足を踏み出すのが叶わなかったのは、Nakamuの手が私のローブの裾を掴んだからだった。
弱々しく問われたそれに何の事だろうかと考え、すぐに先程の謝罪の話の事だと悟る。そう言えば明確な赦しの言葉を返してはいなかったが、今の私にNo以外の選択肢がある筈もない。
「…最初から怒ってなんかないよ」
「……ほんと?」
「本当。少し、びっくりしただけだから」
____________人はすべて、聞くに早く、語るにおそく、怒るにおそくあるべきである。
そんな聖書の言葉通り、怒りの感情は捨てた。憎しみも僻みも、あの日に置いてきた。
私は決して敵討ちがしたい訳ではないのだ。だって彼らは、ただ人々の幸せな生活を脅かす存在に過ぎないのだから。
「優しいね、Aは」
「……そうでもないよ、きっと」
「ううん、優しいよ。"赦す"のは、優しい人にしか出来ないから」
もっと彼らが悪魔らしくあれば私もこんな風に絆されずに済んだのだろうかと、Nakamuを見つめながら考える。
……ここへ来た頃の感情は、もう取り戻せそうにないな。
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クリパ好き - 神…() (2022年11月11日 10時) (レス) @page48 id: cf4801f795 (このIDを非表示/違反報告)
😊 - カッコよかったぜ!どんどん登場人物の考え方が変わっていくのがなんか綺麗で自然でなんかすごかった()完結寂しいけどおめでとう! (2022年9月3日 2時) (レス) @page48 id: 9df188f843 (このIDを非表示/違反報告)
Bearl - 完結おめでとうございます!それぞれの登場人物の描写が細かくって、読んでいてとても楽しかったです!小説の更新、お疲れ様でした! (2022年8月26日 10時) (レス) @page48 id: cd9603c5df (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - あいすすすさん» わ、気付いていただけて嬉しいです〜!!よろしければもう少々お付き合い下さい☺️ (2022年8月25日 16時) (レス) id: 17312d353f (このIDを非表示/違反報告)
あいすすす - 七つの大罪や美徳が好きなのでわくわくしながら読み進めていたら、夢主ちゃんの救恤と強欲の悪魔が館に存在しなかったのがここに絡んでくるとは!とても面白くて毎度楽しみにしています。これからも楽しみにしています! (2022年7月17日 8時) (レス) @page40 id: 8404f46a69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まめこ | 作成日時:2022年5月24日 20時