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「ここだ。好きに使え」

会話が途切れてすぐ。
着いてこい、とだけ言って歩き出したスマイルの後を大人しく追うと、連れてこられたのは談話室よりも小さな扉の前だった。

「…何?ここ」
「何ってお前の部屋だろ」
「……まさか本当にここで過ごせって言うの?」

そりゃ逃がす訳にはいかないからな、とスマイルはけろりとした顔でそう言うと、手を触れずに扉を開ける。
魔力で動かしているのだろう。恐る恐る足を踏み入れると、まあ、とスマイルが再び口を開いた。

「たまに彼奴らの相手をしてくれれば、あとは好きにしてくれて構わん」

あいつら、というのは間違いなく他の悪魔達の事だろう。
子守りを指すようなその言い方に妙に納得しつつ部屋を見渡せば、存外広いそこには見たところ埃も被っておらず、人間が生活する為に必要なものがきちんと備わっていた。
悪魔達が態々掃除をするとも思えないので、おそらくこの洋館全体に特殊な魔術がかけられているのだろう。

「…ここだけ、時が止まってるって事ね」
「ああ」

流石だなと言う彼に、そんな事で褒められたって嬉しくないけどと言いかけて口を噤む。
時を止めるなんてそんな高度な魔術、きっとここの悪魔達にしか使えない筈だ。本当に、どうしようもない程敵わない。
もしも一生ここに捕らわれて帰れなかったら、二度と父に会えなかったら、そんな捨て去ったはずの恐怖が顔を覗かせてしまう程に、この悪魔達には隙がなかった。


「…それと、食材なら食堂に適当に用意してやるから好きに使え」
「……でも、時が止まってるなら空腹も感じないんじゃないの?」
「そうだろうな。でも食事も人間の娯楽の一種なんだろ?」
「それは…まぁそうだけど…」

全く、配慮があるのかないのか分からない。
溜息を吐く私を見て、さも親切な事をしたと言わんばかりの表情を浮かべる彼は、確かに傲慢の罪に相応しい。これで案内は終わりだと言いながら欠伸をこぼす所を見るに、最初のような威厳は既にないが。


「…あぁそうだ。1人の時、襲われないように気を付けろよ」


おそらくそのまま姿を消そうとしていたスマイルが、欠伸を終えた気怠げな声で再び私を見る。
微かに揺れた白黒の羽を視界の隅に捉えながら私はその言葉の真意を汲み取れずに眉を寄せた。

「…それってどうい…う……?」

しかし、瞬きをしたその一瞬。
問い返そうとした私をそのままに、彼の姿はもう既に何処にも見当たらなかった。

*→←Known.



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クリパ好き - 神…() (2022年11月11日 10時) (レス) @page48 id: cf4801f795 (このIDを非表示/違反報告)
😊 - カッコよかったぜ!どんどん登場人物の考え方が変わっていくのがなんか綺麗で自然でなんかすごかった()完結寂しいけどおめでとう! (2022年9月3日 2時) (レス) @page48 id: 9df188f843 (このIDを非表示/違反報告)
Bearl - 完結おめでとうございます!それぞれの登場人物の描写が細かくって、読んでいてとても楽しかったです!小説の更新、お疲れ様でした! (2022年8月26日 10時) (レス) @page48 id: cd9603c5df (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - あいすすすさん» わ、気付いていただけて嬉しいです〜!!よろしければもう少々お付き合い下さい☺️ (2022年8月25日 16時) (レス) id: 17312d353f (このIDを非表示/違反報告)
あいすすす - 七つの大罪や美徳が好きなのでわくわくしながら読み進めていたら、夢主ちゃんの救恤と強欲の悪魔が館に存在しなかったのがここに絡んでくるとは!とても面白くて毎度楽しみにしています。これからも楽しみにしています! (2022年7月17日 8時) (レス) @page40 id: 8404f46a69 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まめこ | 作成日時:2022年5月24日 20時

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