死神の部屋へ ページ8
窓から見下ろした午後の街は、一マイル先も見通せないほどに濃霧の底で澱んでいた。ロンドンはよく「パブで煙草を吹かす紳士」と例えられるけど、今日はまさにそうだった。目に見えぬ紳士の吐く紫煙は辺りかまわずと言った感じで始末に負えない。
ほらご覧、通りを行く人は、ゾンビのように手を伸ばしてよろよろ歩いている。それか、足下をよく見るためにずっと陰気に俯いている。信号が変わる度に車のクラクションや怒号も飛び交うし、うるさいったらありゃしない。こんな大騒ぎの元を作るなんて自己中心的な男だ。まるで何処かの誰かみたいに。
ああ、しかし行動を起こさねば。マフィン君がちょうど何処かへ出掛けている今の内に。
僕は不吉な予感に呻いた後、死神の住まう二号室の扉をノックした。
「何の用だ」
ガチャリ、と扉を開けるや否や、彼はその隙間を埋めるようにだらしなく立ち、気怠げにそう言った。
生まれつきの美麗さが台無しになるほどに頭はボサボサで、顔は「寝起きです」と言わんばかりにぼんやりして締まらない。高価なブリティッシュスーツは寝巻き代わりなのか、皺だらけだった。
けれど、本当に眠いのなら、利き手を腰にやる必要はない。足先で絨毯や新聞紙の山の下に隠した銃かナイフかを抑える必要もない。顔を合わせた瞬間、その瞳が鋭く光ったことだって僕は知っている。
「聞く必要あるかい? 君に限って」
「そうだな」
シャーロックはふっと笑った。
同時に、まるで憑き物が落ちたように気怠げなそぶりは消え失せる。彼はくるりと背を向け、後ろ手で部屋の中央にある椅子を指した。それから煙草に火を付ける。
ジュッというライターの音を聞きながら、僕は絨毯に広がる物や書類を遠慮なく踏み付けて椅子に向かう。
やれやれ、汚い部屋だ。何処もかしこも物だらけ。壁は犯罪者たちの写真や陰惨な事件の切り抜きでいっぱいだ。大家のユウミさんが見たらなんて言うかな。空気も煙で濁っている。窓は開いているのにだ。
僕は椅子に辿り着くと、その上に転がっていた本やバイオリンやペーパーナイフやらを適当に側の机へ片付け——でもいざという時に手を伸ばせるようにしてから——腰を下ろし足を組んだ。
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シャーロック(プロフ) - Riruriさん» うわ〜!嬉しいお言葉を本当にありがとうございます!お待ちしておりますのでぜひよろしくお願いします!感謝しております! (11月26日 0時) (レス) id: 37fed7f1d4 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - ネット販売おめでとうございます…!生憎金欠なので、お小遣い入ったら光の速さで購入させていただきます。本当は今すぐにでも欲しいですが……無念。これからもシャーロック様としての活動、カイマナふぁみりー様としての活動共に陰ながら応援しています! (11月24日 16時) (レス) id: fa82e694ee (このIDを非表示/違反報告)
シャーロック(プロフ) - Riruriさん» お返事遅くなってすみません!実は数日前から私が脳梗塞なんじゃないかって家族と大騒ぎしていて、とても余裕がなかったんです(汗)ハロウィン短編を喜んで頂けてとても嬉しいです。敵対関係にないのに互いに踏み切れない二人。歯痒いけれどもそれがいい! (10月15日 22時) (レス) id: 37fed7f1d4 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - 別世界線の二人も中身はそのままなのに設定が違うだけでここまで関係性も変わっていくのかと驚きましたし、それと同時により二人のことが大好きになりました💞素敵な作品を読ませてくださり本当に有難うございます!!読みにくい長文コメント失礼致しました💦 (10月11日 14時) (レス) id: 7e45e119a7 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - ハロウィン編、物凄く素敵です…!!新たな設定の二人と知り、どうなるのかとワクワクしながら読み進めていきましたが、そのワクワクを遥かに上回る程の面白さ、“尊さ”でさっきから溜め息が止まりません笑 物語の進め方、まとめ方も凄く美しくてただただ尊敬です…… (10月11日 13時) (レス) @page35 id: 7e45e119a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:シャーロック | 作者ホームページ:https://kaimanafamily.wixsite.com/welcome-to-sanctuary
作成日時:2022年11月14日 17時