【歌い手】flower【短編集】 (ページ17)

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夏代孝明…凛音ページ17

すっかり、空が明るくなっていた。

作業詰めの毎日に追い回される日々。

でも、これが僕の幸せ、なんてもう末期かな。
まだ朝が早かったのもあって、外に人はいない。

僕は、いつものように彼女に会いに行った。

人気のない道を、
肌寒さを感じさせる風と一緒に並列する。

走らず、焦らず、ゆっくりと歩こう。

早く歌詞が覚えられるように
ライブのセトリ同様に作られたプレイリスト。

順番に大好きな音楽が流れていく。

三曲目は…あぁ、そうだ。
君を思った曲だっけ。

堂々と言えることではないが、僕は去年失恋した。

それなのに、会いたくなるんだ。
大好きな、大好きな僕のお嫁さん。

になるはずだった、彼女。

彼女は去年この世を去った。
因果は、交通事故。

飲酒運転。

仕事帰りのAを轢き殺した。
43歳、無職。

前日まで朝ごはんを食べながら、人が轢き殺されるニュースを

｢物騒だね｣

なんて、2人で顔を顰めていた。
その日の19時34分28秒にAは死んだ。

地球が何回まわった日??
ふざけんな、そんなのどうだっていい。

その日の翌日はAの特別な日。
Aは24歳になり損ねた。

みんな、葬儀の日に
大変ね、元気出せって励ましてくれた。

それって、違うだろ。

なんで、僕なの。

痛かったのはAだよ??
この世から急に追い出されたのはAだよ??

たくさん血を流して、もう目も見えないし、耳も聞こえない、呼吸すらできない、

僕のことすら、もうわかんないんだよ。