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ウルドは手を止め、視界の端にちらつく男女の姿に大きなため息を漏らした。
その男女というのは片や、二千年は下らない時を共に過ごしてきた吸血鬼の第五位始祖のルクで、もう片方は彼が不純な動機でここに連れてきた家畜にすらならない不味い血の持ち主。
彼らはウルドの書斎で簡単な書類整理を一時間ほど前から担ってくれているのだが、視界に入れば気が散るのが問題だった。
「ルク、これは?」
「あー、いるからそこ置いとけ」
「はーい」
「これ、さっきのとまとめて置いてくれ」
「わかった」
仕事は処理能力と質、どちらも問題はない。
寧ろ良すぎるくらいだ。
流石、彼が育てた人間の子と言うべきか。
Aは頭の回転も早く、てきぱきと手を動かしている。
ならば、何が問題か。
単純に言うなら彼らの距離だ。
更に言うならAは今、ルクの膝の上に乗っている。
明らかに仕事をしていると言い切れない体制なのは間違いない。
「ウルド様、どうかしました?」
「…お前は何とも思わないのか?」
「……?」
「その娘もそろそろ良い歳だろう。いつまでもそうやって子供だった頃のように膝に乗せて甘やかすな。ルク」
「人間なんて大人も子供も俺たちにとっては赤子も同然ですけど…まあ、それもそうか」
Aとしては不本意な思いを抱えながらも、ウルドがそう言うならば仕方ない。
ルクが手で示してくれた隣に移動し、座る。
少し開放感はあるものの物足りなさが勝る。
少し不満に感じた彼女の心持ちをウルドは簡単に感じ取ったのか、ため息にならない程度に小さく呆れ半分に息を吐き出した。
「お前ももう子供じゃない。分かっているだろう」
「……」
「ちょっとウルド様」
「お前も可愛がるばかりじゃなくて、この娘の自立をさせろ」
ルクはウルドから浴びせられる耳が痛い言葉にぐうの音も出なかった。
まるで小姑のようだ。
彼の言うことはまともで、どちらかと言えば正論に値するものだろう。
だが、隣で明らかに寂しがるような素振りを見せるAを見ていると、ついつい手を伸ばしたくなるのだ。
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こんぺいとう(プロフ) - RiAさん» ありがとうございますー!この頃更新が遅くなって日付を跨ぐこともしばしばですが1日1更新は必ず守っていきますので、どうぞよろしくお願いします♪ (2020年10月2日 19時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
RiA(プロフ) - こんぺいとう様の作品全部大好きです(><)ずっと応援してます!更新楽しみにしてます! (2020年10月1日 11時) (レス) id: 5404c24946 (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとう(プロフ) - ありがとうございます!ちょっぴり切なくてシリアスですが、今後もお付き合いくださいー! (2020年9月30日 21時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ひなどり。(プロフ) - ストーリー凝っててすきです…応援してます (2020年9月30日 19時) (レス) id: b8745ce36d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年9月24日 22時