Episode 15 ページ16
「う、嘘……」
なんとか絞り出したAの声が紡いだのはリヴァイを言葉を否定するものだった。
その言葉に彼女の肩に顔をうずめていたリヴァイは、不機嫌そうな顔をして彼女を自分の腕の中から解放する。それほど、彼女の言葉は彼にとって予想外のものだったのだろう。
「なんで嘘なんだよ」
「だ、だって……ありえないです」
「あ?」
「………だって、だって兵長はそんなこと言わない。私なんかに特別な感情を抱いたりしない」
「お前、ちゃんと聞いてなかったのか?好きだって言ってんだよ」
「嘘だ」
「お前な……」
呆れたような、それでいて少し苛立ったような顔で睨まれても彼女は引き下がらない。それほど、彼女にとってもリヴァイの言葉は受け入れられないものなのだったのだ。
それもそうだろう。
ここに来るまでAは彼に自分の気持ちを否定されたと思っていたのだ。すんなり受け入れれるわけがない。
「今までだって、一度もそんなこと言わなかったじゃないですか。それにお見合いしろって……」
「だから忘れろって言ってんだよ。今だけだ、こんなこと言うの」
「………」
「いいか、勘違いをするな。今日が終わったらすべてが終わりってわけじゃない」
「でも……」
「いいから聞け。1回しか言わねえぞ」
兵長が緊張してる……?
Aは目の前で髪をぐしゃりとかき上げ、どこか気まずそうな顔をしているリヴァイを凝視しながらそう思ったのには理由があった。
彼のことはいつだって見てきた。辛い時も怒りに震える時も、どんな時だってどんな表情だってAは見てきたのだ。
なのに、こんな顔をする彼をAは知らない。
「……俺の心臓は人類のものだ。俺が背負うのは亡くなった兵士の想いだ。人類の希望だ」
「はい……」
「だからお前の望みは背負ってやれない。俺にはお前の未来を約束はしてやれない。意味はわかるな?」
「はい」
リヴァイは戦いの中心となる人物____言ってみれば死に一番近い場所にいる人なのだ。その人が簡単に誰かとの未来を約束するわけにはいかない。そんな無責任なことを彼ができるはずがなかった。
Aはそれを痛いほど知っている。
だからこそ、彼はAに対して自分の感情を言ったことはない。それは彼女とて同じだった。
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作者名:マキノ | 作成日時:2021年10月26日 17時