Episode 14 ページ15
「これは上官としての命令だ」
「兵長……?」
「これからのことは忘れろ。この場だけのことだ」
「え……?」
「返事しろ」
「……はい。承知しました」
なんのことかもわからないまま、返事をするのは腑に落ちないが言われるがまま返事をする。
それが引き金になったかのように、唇に触れていた親指が顎に移動し、クイッと持ち上げられたかと思うと、そのまま唇を塞がれる。
ああ、そういうことか。
Aは瞳を閉じることもせず、ぼんやりと視線を漂わせた。
これが最後の関係ということか。
朝が来ればこの関係に終止符が打たれる。だから彼は今日のことを忘れろといったのだろう。明日からはただの兵士と上官に戻るということか。
泣きたい気持ちなのに、涙は枯れてしまったかのように出ない。人は本当に悲しい時には泣けないこともあるのかもしれないな、なんて思う。
唇が離れ、視線がぶつかる。そのまま、引き寄せられて彼女は腕の中に閉じ込められた。強い力で抱きしめたまま、リヴァイが次の行動に移ることはなかった。
首筋にあたる吐息にAはくすぐったくて身をよじりたくなる。だが、それを許さないくらいに彼の力は強くて、Aはいつもと様子の違うリヴァイに眉を顰めた。
「へい……ちょう?」
いつもなら、余裕がないというようにベッドに押し倒されることのほうが多い。
こんなにお互いの体温を感じあったのは初めてではないだろうか。
「……どうかされたのですか?」
「ちょっと黙ってろ」
「……は、はい」
どうしていいのかわからなくなった行き場のない手でそっと彼の背中に触れる。ゆっくりと瞳を閉じ、彼だけに集中するとなんだか今が永遠のように思えた。
「……いいか。ちゃんと忘れろよ」
「え?」
「明日になったら忘れろ。明日になれば俺とお前の関係に名はない」
「分かってます。ちゃんと____」
これで、最後だと分かってます。
そう言おうとした彼女の言葉を遮ったのはリヴァイの一言だった。
「好きだ」
ありえない一言にAは瞳を見開き、呼吸をすることさえ一瞬、忘れてしまった。
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作者名:マキノ | 作成日時:2021年10月26日 17時