＊この世で最も美しく、哀しくない話part６＊ (ページ3)

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風が、頬に刺さる。

棘が刺さったままの頬は痛くて、熱くて、それでいて凍えそうだ。

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人は、優しいものだと信じて生きてきた。

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可愛いくはないけれど、憧れた仕事に就きたくて勉強を頑張った。

恋をした。

その人に、愛してもらった。

優しく、優しく、大事にしてもらった。

私は、それだけで良かった。

それ以上の幸せなんて求めない。

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きっと私は歳と共にもっとお肉がついていって、

顔にはシミもシワも増えて、綺麗な奥さんにはなれないし、カリスマ主婦にもなれないし、

仕事を頑張って。仕事が終わったらどこにでもいる普通のお母さんになって

スーパーの安売りに走っていって･･････。

それだけで、良かった。

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こんな。

人間の悪意を。

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知らないまま、平凡に、生きていたかった。

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泣くものか、と思っているのに。

涙が滲んだ。

風が吹く。

また涙が滲む。泣くものか。

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智「俺に惚れるのを待っていたのに、全然そんな気配ないからさ～

痺れを切らしちゃったよ」

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大野さんの指がまた、私の頬に触れ、ひび割れた氷を踏みしめられたように

何かが鈍く軋み、割れる音が聞こえる。

軋み、割れたのは、私の心のどこかなのだろう。

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智「一回抱かせてよ？チヅルとどう違うの？どうやって男を夢中にさせたの？」

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吐きそう。

･････････身体全身が重くて、吐き気がこみ上げる。

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限界。心も、身体も、限界。

そう思ったから。

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「不在着信見たらすぐにかけ直せや」

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和也の声が響き、和也の薄いグレーのニットの左腕が私の身体を後ろから抱えこみ、

ジーンズから出た黒いスニーカーが大野さんの腕をガン！と蹴った時。

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私は子供のように和也にしがみ付いていた。

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和「当たっちゃった？足が長くてごめんね～？」

私を抱きかかえたまま、上の方で聞こえる和也の、

いつもみたいに人を馬鹿にした声が。

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愛おしくて愛おしくて、泣けた。