＊この世で最も美しく、哀しくない話part６＊ (ページ12)

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小さく流れる薬局内の音楽が、外の雨の音で時折かき消される。

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冬の日々はゆっくりと過ぎて行った。

大野さんとはあれ以来、会っていない。

相変わらず大野さんの評判はよく、その話題になる度に私は少し微笑む。

怖い、とやっぱり思う。

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人の恐ろしさ、というものを感じて背筋が冷たくなる。

あの笑顔。

あの声。

まるで天使みたいで。それでいて暗い深い闇の中にいた。

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だけど私は大丈夫。

私には和也がいる。

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和也は相変わらず意地悪で、ニヤリと笑って、私を抱き締める。

その温かさを知っている。

その強さを知っている。

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強く優しい人を見ていると、自分も強くなれる気がする。

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だから。

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出来ることならもう２度と会わずに、記憶の奥底にしまっておきたい人の

青白い顔を自動ドアの向こうに見た時も。

自動ドアがウィーン････と開いて、処方箋を持っていないその人がカツンカツンと歩いてきた時も。

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「お久しぶり、ね？」

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小さく唇が開いて微笑んだ時も。

私は大丈夫だ、と思った。

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「彼女」は相変わらず美しく、背筋を真っ直ぐ伸ばして高いヒールを履いていて、

私よりだいぶ高い身長でそこに立っていたけれど。

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すごく、小さく見えた。

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チヅルさんはすごく、小さく見えた。