＊この世で最も美しく、哀しくない話part６＊ (ページ18)

今日:4 hit、昨日:3 hit、合計:1,272,158 hit

１４３　ページ18

多分、目は真っ赤で。

泣いていたのは明らかに分かっただろうけど、ソハラさんは何も言わなかった。

雨で良かった。

患者さんが少ない日で良かった。

雨の音と、有線の音楽があって、良かった。

・

・

・

・

数時間、必死に仕事のことだけを考えて、ようやくタイムカードを押した時、

全身の緊張が解けていく。

解けていくと同時にまた、涙が溢れそうで、下唇を噛み締めた。

・

・

夕方５時。

本当なら帰りにスーパーに寄って、夕飯の買い物をするつもりだった。

マルフクスーパーは今日、牛乳と卵の特売デー。

卵は２パック買おうかな、なんて朝は思っていた。

薬局を出て歩いて行く。

足は、駅に向かっていた。

・

・

まだ学生が多い時間帯の駅前の道を、歩いて行く。

透明のビニール傘、黒い傘、ピンクの傘････色々な色が雨に濡れてクルクル回る。

混みあう改札。

足早に歩く人々。

こんな時間に電車に乗るのはひどく久しぶりで、混みあう電車に乗ると

隣合わせたサラリーマンのスーツが雨で少し濡れていて

私の手の甲を雨粒が転がっていく。

・

・

・

３本の路線が乗り入れている駅に着くと、人の波は大きくうねり

狭い電車から吐き出された人々が階段を上り、下り、それぞれの場所へ帰って行く。

・

・

案内図を見る。

誰もが知る会社名が地図に出ていた。

５番出口･････階段を登り、地上に出る。

雨に、ガラスが濡れてキラキラと光っている。

時間外だからだろう。人がいない受付までは社員じゃなくても入れた。

警備員の視線を感じながらビル内の案内板を見る。

ずらっと並んだ課名を見ても、どのフロアにいるのかは分からなかった。

・

・

・

正面玄関前にあるコンビニで缶コーヒーを買う。

寒さで震える手には、缶コーヒーは痛いくらいに熱い。

・

・

・

缶コーヒーを持ったまま、ギリギリ屋根の下の植込のレンガの上に

座った。

お尻が冷たい。

レンガが濡れているからか、寒さで湿っているからかは、分からなかったけれど

立っているよりマシだ。