＊この世で最も美しく、哀しくない話＊ (ページ23)

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A「ほいよ、っと。録画予約したよ」

和「サンキュー、あ、俺今さ、Ｔ町にいるんだけど、三好屋の鯛焼きいる？」

三好屋･･･というのは地元で有名な美味しい鯛焼き屋さん。

A「いる！いる！」

和「ん、あー･･･でも時間的にもう売り切れてっかなー･･･」

A「売り切れてたら土下座して焼いてもらってこい！」

和「どれだけ食いてぇんだよ・笑。まぁ一応行ってみるわ。売り切れてなかったら種類見てまた電話する」

A「鯛焼きだけ帰ってこればいいよ。アンタは帰って来なくていいよ」

和「バルス！」

和也は私に呪文を投げつけて電話を切りやがった。

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また台所に戻って、冷蔵庫から白ワインを出す。

ワイングラスなんていうオシャレなものは我が家にはないので

１００均のコップに注いで立ったまま飲む。

A「おいしーーーーーー♪」

たまには白ワインも悪くないね。ウン。

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ピピピピピ･･･とキッチンタイマーが鳴り、えだ豆の茹であがりを教えてくれる。

コップをオーブントースターの上に置いて、タイマーを停める。

シンクにザルを置き、鍋の湯ごとざぁ･･･とあける。

狭いシンクにモアモアと広がる湯気と、枝豆の匂い。

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熱い湯気が頬をじとっと湿らす。

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熱々の枝豆を摘もうとすると、♪♪♪♪･････また携帯が鳴った。

A「あちっ」

視線も脳内も、目の前の美味しそうな枝豆にいったまま、携帯をとった。

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電話は和也からだと、疑いもしなかった。

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A「鯛焼きあった？私、あんこ＆カスタードがいい」

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熱々の１粒を口に含んでいたから、声は篭っていたと思う。

あれ？さっきの電話みたいにバックが騒がしくないな、と思った。

あれ？なんか、おかしいな、と思った。

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指で押さえた枝豆の皮から、コロン、と一粒の豆が飛び、台所の床を

コロコロと転がっていく。

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電話の向こうで、あの人の空気が、小さく微笑んだ。

緊張と、戸惑いが、どうしてこの小さな機械から伝わってくるんだろう。

『････三好屋の鯛焼き････？』

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雅紀の声が、した。