いやだ ページ19
トイレでさんざん泣いて顔を洗って、
よし、と気合いを入れて廊下に出ると、
階段の隅に座っている大津先輩が視界に入った。
｢…先輩!｣
先輩が、ゆっくり振り向く。
｢…あ、大丈夫?
ちゃんと貼れた?
帰ったら消毒しなね｣
｢部屋、戻ったんじゃ｣
｢Aちゃん置いて、戻れないよ｣
…トイレに長居するんじゃなかった。
｢すみません…｣
なんとなく、先輩の隣に座る。
｢謝るのは、俺の方でしょ｣
…え?
｢気づいてあげられなくて、ごめん。
玲子先輩に会ったのは、今日が最初?｣
｢…はい｣
｢ごめんね…
俺が、誘ったからだね。
やっぱ居づらかったかなって、
今日Aちゃんの笑顔あんまり見れなかったし、
俺が誘わなければ、玲子先輩にも｣
｢…そんなこと!｣
あるわけない。
先輩のせいなんてこと、絶対ない。
｢みなさん優しくて…
私だけサッカー部じゃないのに、全然そんな感じしないし、｣
｢気遣わなくて、いんだよ｣
言葉を遮られて、行き場のない気持ちがふわふわと浮いていく。
さっき、玲子先輩に遮られた時とは、全然違う。
先輩、何でそんな悲しそうな顔するの。
｢嫌なら嫌ってはっきり言って。
史人のことだって…
俺は一回も同情なんてしたつもりなくて、
Aちゃんには“同情”だって思われてたなんて気づけなかった。
迷惑ならそうはっきり言われた方がいい｣
迷惑なわけない。
嫌なわけない。
そう思っても言葉にできない、弱虫な私。
｢ほんと、ごめん。
…もう、話しかけないようにするから｣
先輩が立ち上がる。
行ってしまう。
いやだ。
こんなの、いやだ。
気づいたら、
先輩の裾を掴んでいた。
｢…嫌です｣
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作者名：まな | 作成日時：2012年8月24日 16時
