先輩の、となり。２

50. ページ10

「なんで乗りたくないって言わなかったんですか？」

「ねー……なんでだろ。かっこわる」

「かっこわるい先輩も好きですよ」

そう言ったら薄く目を開けて私を横目で見た。

「今まで遊園地来ても絶対乗らなかったんだよ、絶叫マシン」

「そうなんですか？」

「そ。Aちゃんが初めて」

私が黙ると、先輩はまた目を閉じた。

「俺も『初めて』なこといっぱいあるよ。
Aちゃんと一緒にいたら。
怒ったり拗ねたりかっこ悪いとこ見せたり、ね」

先輩、やっぱり気づいてたんだな。

さっき私が前の彼女と来たのかな、って思っちゃったこと。

「私も。さっき初めてヤキモチやいちゃいました。
前の彼女と遊園地来たのかなって思ったら」

胸のあたりの洋服をつかむ。

「この辺がもやもやしました」

先輩が目を閉じたまま笑ってる。

「なんでちょっと嬉しそうなんですか」
「え、嬉しいじゃん。ヤキモチとか」
「そう…ですか」
「適度なやつは嬉しいよ」

適度ってどれくらいだろ。

「俺もけっこうやいてるし」

「え？！誰に」

「藤ヶ谷くん」

太輔？なんかあったっけ。

「こないだ。藤ヶ谷くんに誕生日教えてもらった時」

あ、あ、あれか。

「その説は、ごめんなさい」

「ほんとだよ。俺、彼氏なのに」

俺、彼氏なのに。パワーワードだ。

「先輩は誕生日いつですか？」

「内緒」
「え、なんで」
「お返し」
「いらないですよ、そんなお返し」

先輩がちょっと復活してきたので、ベンチから立ち上がる。

「お腹すいた？何か食べよっか」

「あ、あのう。お弁当作ってみたんですけど」

「え？！ほんとに？！」

「はい。あ、でも期待しないでください！
ふっつーの、超絶ふっつーのお弁当です」

白くて丸いテーブルがあるところまで移動して、背負ってたリュックからお弁当を出す。

おにぎり、卵焼き、ウインナー、からあげ、プチトマト。

ふたを開けて、どうぞ、って言うと、先輩は目がきらきらして嬉しそう。

「美味しい！」

一口食べてそう言ってくれる。

「なんのひねりもなくて。もうちょっとお料理勉強します」

「なんで？お弁当といえばこれでしょ。最高」

にこにこしてる先輩を見て、私も嬉しくなる。

「ひとり暮らしだから余計に、かな。
手作りのご飯ってすごく特別」

先輩がそう言ってくれるから。

やっぱりお母さんにもうちょっと料理教えてもらおう、とひそかに思った。

51.→←49.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す