先輩の、となり。２

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「Aちゃん？野球部勝ったんだよね、おめでとう」

「あ…ありがとうございます」

太輔が口パクで、言え、って言ってくる。

え、でも。

迷ってたら、太輔がスマホを取り上げた。

「ちょ！」

「急にすみません、藤ヶ谷ですけど」

私が取り返そうとしても、腕で追いやられる。

「今日、A誕生日なんです。タイミング逃して先輩に言えなかったって」

はい、って返される。

いや、はい、って言われても。

「……なんで言ってくれなかったの？」

「今日、試合って決まってたし……」

「だとしても。おめでとうくらい言わせてよ」

それだけ言うと、電話が切れた。

怒らせちゃったかな。

「先輩、なんて？」

「……怒ってたかも」

「ま、そうだろな。でも後から聞いたらもっと怒ると思うけど」

そうかもしれない。

先輩に、言ってなくてごめんなさい、電話嬉しかったです、ってラインしたけど返ってこない。



家に帰って、お風呂入ってほこほこしてたら、ぽこん、ってラインがきた。

『今Aちゃんちの近くにいるんだけど。
ちょっとだけ出てこれる？』

え？！

慌ててボアがついたパーカーをつかんで外に行こうとすると、お母さんがびっくりしてる。

「どこ行くの？湯冷めするわよ」

「ちょっと！すぐ帰ってくる！」


うちを出てすぐ近くのガードレールに先輩が座ってる。

先輩は白いパーカーの上に紺色の薄手のコートをはおってた。

「ごめん、急に」

「私もごめんなさい、言ってなくて」

「いいよ。でもやっぱ、おめでとう、は顔見て言いたかったから」

うちと先輩の家、けっこう離れてるのに。

電話切ってすぐ来てくれたのかな。

「誕生日、おめでとう」

「…ありがとう、ございます」

「プレゼントも何もないけど。
野球部の勝利以上のプレゼントなんてあげらんないし」

私はぶんぶん首を振った。

「お土産もらいました」

「あれはプレゼントじゃなくてお土産だし」

「何もいらないです。ほんとに。
私いつもたくさんもらってます、先輩に」

「え？何を？」

「ドキドキしたり、嬉しかったり、幸せな気持ち。
たくさんたくさんもらってます」

そう言ったら、先輩のうでがのびてきて、ぎゅうって抱きしめられた。

「そういうこと言わないの」

「……ほんとです」

「…髪ぬれてない？お風呂あがり？」

「あ、そうなんです」

「じゃあ早く帰んなきゃ」


そう言いながら。

先輩はなかなか離してくれなかった。

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