先輩の、となり。２

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今年の体育祭は、去年みたいに先輩のラインがかかってるわけじゃないから、気楽に参加した。

とは言え元陸上部の血が騒ぐから、走る時は全力で走ったけど。

「また本気で走ってるし」

「当たり前じゃん」

太輔があきれたように笑う。

「私やっぱり好きだなあ、走るの」

「……そっか」


「藤ヶ谷ー」

クラスの陸上部の男の子が太輔に声をかける。

「何？」
「お前足はえーんだから、もし肘がだめなら陸上部来いよ」
「あー……それもいいかも」

「だめ！」

私がおっきい声を出したから、笑いながら話してた2人がびっくりしてこっちを見る。

「だめだよ。太輔は野球部なんだから」

「なんだよ、佐藤。冗談じゃん。マジになんなよ」

「あ…そうだよね、ごめん」

太輔は何も言わなかったけど、なんか変な空気にしてしまった。


先輩は今年じゃんけんで負けて障害物競走に出てたけど、本気で嫌そうだった。

ぴょこぴょこ跳ねるみたいにハードル跳んでてかわいい。

走り終わった先輩がこっちを見たから私が笑いをこらえてたら、拗ねて口をいーってしてた。







6月に入って、雨の日が多くなってきた。

折り畳み傘持って行こうと玄関でがさごそしてたら、お兄ちゃんが寝癖つけたまま顔を出した。

「なあ、A」

「んー？」

「太輔最近どうしてる？」

「どうしてるって。学校は普通に来てるよ。
放課後リハビリ行ってる」

ふと、そういえば最近あんまり部活に顔出してないな、と思う。

傘が見つかったから、カバンにしまってたら、お兄ちゃんが言う。

「最近ラインも電話も無視されんだけど」

「忙しいんじゃない？」

「忙しくても無視はしないだろ、あいつ」

まあ、確かに。

「あのさ。昨日もリハビリ行ってた？」

「たぶん。そうだと思うけど」

「俺昨日見かけた気がするんだけど。駅前で」

「駅にはいるでしょ。電車通学なんだし」

「女の子と歩いてたよ、病院行く雰囲気じゃなかった」

一瞬、手が止まる。

「S女の制服着てる子でしょ？彼女だよ。
リハビリの息抜きでもしてたんじゃない」

「S女？お前と同じ制服だったよ」

え？

美月ちゃんじゃないの？


「見間違いじゃない？」

「まあな。遠目だったし自信ないっちゃあない」

「じゃあ間違いだよ」

お兄ちゃんはあんまり納得してない感じだったけど。

私は会話を強制終了してそのまま学校に行った。

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