先輩の、となり。２

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「肘がおかしいのは気づいてた。
離脱性骨軟骨炎てこともネットで調べてそうかもって思ってた」

太輔がぽつり、と言う。

「じゃあなんで。もっと早く病院行ってたら」

「病院に行ったら、投げるの止められると思った」

「そうかもしれないけど。
手術までしなくてすんだかもしれないよ」

太輔は窓の外を見た。

「俺は別にプロ目指してるわけじゃない。
甲子園に行くのがずっと夢だった」

遠くの桜の木が蕾をつけて、うっすらピンクに見える。

「だから甲子園で投げられたら、そのあとはもう野球できなくなってもいいって思った」

わかってる。

県の予選を勝ち抜くチャンスはそうそうないってこと。

甲子園への切符が簡単には手に入らないってこと。

「最悪なタイミングでだめだったけど」

「……言ってほしかったよ。
ひとりで苦しまないでほしかった」

「言ったら絶対止めただろ」

「それは…止めたと思うけど」

「Aにはばれそうになってあせった」

「え？」

「何かあった？って急に聞いてきたから。
誰にも気づかれてないと思ってたのに」

やっぱりあの時。

違和感感じてたあの時、無理してたんだ。

「長年のカン、だよ。
でも何の役にも立たなかったけど」

目を伏せて小さく笑う太輔。


「太輔。簡単じゃないってわかるけど。
私は諦めたくないよ、太輔と甲子園行くの」

「……うん」

「とりあえずリハビリ頑張ろう。
利き腕だしギプスだとしばらく不便だよね？」

「まあ、慣れるまでは」

「学校また一緒に行こう？」

「いや……いいよ」

なんで、って聞こうとして美月ちゃんの顔が浮かぶ。

「…美月ちゃんが嫌がるかな」

「……あー…うん」
　
そっか。そうだよね。


何もできない。

太輔は私が陸上でケガした時、あんなにそばにいてくれたのに。

何も、できないな。



太輔がいないまま戦った甲子園の初戦は、16対0の大敗だった。

でもみんなは土を持って帰って来なかった。

太輔ともう一回行くからって。

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