先輩の、となり。２

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太輔の肘の診断は、「離脱性骨軟骨炎」だった。

肘の外側の軟骨が剥がれてくるもので、レントゲンを撮ったら完全に剥がれてしまっていたみたいだ。

「かなり重症ですね。
症状が軽ければ投球動作をしながらの治療も可能なんですが」

先生の言葉が診察室に響く。

「ここまでひどいと、一年くらい投球禁止して様子を見るか、手術をするかですね」

太輔が絞り出すような声で言う。

「……手術すれば、どれくらいで治りますか」

「術後2、3週間はギプスで固定、4か月後からバッティング練習、ピッチング練習は半年後が目安かな」

……半年。

3日後の甲子園はもちろん、次の夏の予選も間に合わない。

「手術します」

治療方針を聞かれた太輔は、そう答えていたけど。

残酷すぎる現実に私も監督も何も言えなかった。


診察を終えて、待合室に行くと、心配した部員が何人か来ていた。

「…どうだった」

太輔は一瞬唇をかんで下を向いたあと、顔をあげると笑った。

「ごめん、肘だめだった」

「……」

「手術しても半年かかるって。ほんとごめん」

「…太輔が謝るなよ。俺たちこそ気づけなくてごめん」

「いや泣くなよ。泣きたいの俺だろ」


太輔いつから肘おかしかったんだろう。

ほっといたらすぐ練習しすぎることも。

みんなの前では無理したり我慢しちゃうことも。

知ってたのに。わかってたのに。

気づかなかった。


監督が太輔と私を家まで送ろうかって言ったけど、太輔は首を振った。

電車に乗って、家の近くまで来ると、あの公園の前で足を止めた。

夕方だけどまだ明るい公園は、子どもたちがドッジボールをして歓声をあげてる。

それを立ち止まってぼんやり見てた太輔が笑う。


「あと3日だったのに、な」


「……ないでよ」

「え？」

「笑わないでよ」


泣いちゃだめだ。

私が泣いたら太輔はもっと苦しくなる。


「笑わなくていいんだよ」


私がそう言うと、太輔が顔を一瞬ゆがめて背中を向けた。

「こっち見るな」

「……見てない」




その日の夜。

先輩からラインがきた。

『宮田から聞いちゃった、サプライズのこと』

『何かあったの？』

何も返せずにいると、電話がかかってきたけど。

太輔と別れて家に帰ってから、堰が切れたみたいに涙が止まらない。

初めて。

先輩からの電話に出られなかった。

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