先輩の、となり。

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放課後、野球部が練習しているグラウンドに降りて行ったら、人垣ができていた。

「Aさーん」

川上さんが手を振っている。

え？川上さんだけかと思ってたらこんなにたくさん。

太輔はランニングしてる。
自分が見られてるって気づいてなさそう。


ボールを磨きながら西校舎を見上げる。
生徒会室、電気ついてる。

今日は先輩に会えなかったなあ。

学年が違うと、校舎ですれ違うことは滅多になくて。

学食でお昼食べてるの遠くから眺めたり、体育でサッカーしてるとここっそり見たり、1日1回見かけたらラッキーな方だった。

「A、監督がノックするからボール渡して」
「はい！」


暗くなるまで練習は続き、練習後に飲むスポーツドリンクを作りに水飲み場まできたら、ピッチング練習を終えた太輔とばったり会った。

「お疲れさま」
「あっつい」

ばしゃばしゃ顔を洗ってる。

「今日女の子いっぱい見に来てたでしょ？」
「ん？あー……」

「太輔を見に来てたんだよ」
「……へえ」
「モテますな」

うつむいた太輔のあごから、水がぽたぽた滴り落ちた。

「A」

「はい、タオル」

「や、そうじゃなくて」



「Aちゃん？」

不意に後ろから声をかけられた。

「玉森先輩！」

水飲み場の向こう側は自転車置き場になっていて、玉森先輩は黄色い自転車を押していた。

「野球部のマネージャーなんだっけ」
「そうなんです。先輩は今帰りですか？」
「うん、そう。体育祭のことで話し合い」

今日はもう会えないと思ってたから、嬉しい。

「A、俺先戻ってるわ」
「あ、うん。すぐ行くね」

太輔は先輩をちらっと見て、軽く頭を下げると走って行った。

「藤ヶ谷くんでしょ、今の」
「知ってるんですか？」
「中学でけっこう有名だったピッチャーが入ってくるって噂になってたよ」

太輔ずるい、先輩に入学前から知られてたなんて。

「先輩自転車なんですね」
「うん、そう」

じゃあ家そんな遠くないのかな。
どの辺りだろ。

「家は教えてあげないよ」

「ストーカーしちゃいそうなので、私も知らない方がいいと思います」

あはは、自覚してるって口開けて笑った。

「かわいい…」
「え？」
「いえ、黄色い自転車かわいいですね」
「でしょー？愛車」


可愛いのは先輩、なんですけど。


「じゃあね」
「はい！1日1玉森先輩が達成できました」
「いち玉森先輩？」
「1日1回は先輩の顔を見るって目標です」


なにそれ、ってまた先輩は笑った。

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