先輩の、となり。

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風邪が治ってからは、部活に毎日行って。

お盆休みは神戸のおじいちゃんの家に行って。

麻美とプール行って。

宿題に追われてたら、夏休みもあと3日。


監督がそろそろ宿題終わらせるように、って今日は早く部活が終わった。

何か食べてこーぜ、とか言ってる部員のみんなと校門のところまで行った時。

「Aちゃん」

玉森先輩がいつもの黄色い自転車にまたがって、ひらひら手を振っていた。

「先輩、どうしたんですか？」
「待ってた」
「え？」

「Aちゃんを、待ってたの。後ろ乗って？」

よくわからないまま、自転車にまたがる。

「つかまっててね」

腰のところに手を強制的に引っ張られる。

今日は赤いTシャツにゆるいシルエットの黒いパンツ。片耳にピアス。

うう、今日もかっこいいい。

「行くよー」

前よりだいぶ速いスピードで自転車を飛ばして。

着いたのは、海だった。


「えー！知らなかった、自転車で来られるなんて」

「いいでしょ、俺のお気に入りの場所」

そうなんだ。

よく来るのかな。


自転車から降りて、砂浜を歩く。

「気持ちいい」

「でしょ。夕方はちょっと涼しくなってきたよね」

犬の散歩をしてる人やランニングをしてる人がちらほらいるくらいで、人影は少なかった。


海が見渡せるところまで来ると、玉森先輩がよいしょって言いながら座って、横をぽんぽん、ってたたく。

あ、座れってことかな。

すとん、と横に座る。


「見て。もうすぐ沈むよ」

「わ……」


大きな大きな夕日が、まわりの空を真っ赤に染めて
少しずつ海に沈んでいく。

先輩が私を見て、柔らかい声で言った。

「Aちゃんに見せたかったんだ」

「……きれいです」

「花火一緒に見られなくて、ほんとにごめんね」


それで、連れて来てくれたのかな。


「こんなきれいな夕日、初めて見ました」

「うん」

にこって笑うと、先輩は足元の砂をつかんでさらさら砂時計みたいに落とした。

「あとね、決意表明」

「決意表明？」

「俺、ちゃんと大崎先輩に自分の気持ち言おうと思う。
そこをごまかして逃げてるから、だめなんだって思って」

そっか。

好きって言うんだ。

ちょっとだけ胸が痛む。



「ちゃんと言ってちゃんと前進めたら」

先輩が少し黙ったあと、私を見た。


「……その時また、聞いてくれる？」

「はい」


何を？と一瞬思ったけど、聞かなかった。

だって何でもいい。

「何でも、聞きます」


先輩は今までで一番優しく、笑った。

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