先輩の、となり。

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先輩らしき人影を追いかけたけど、人が多くて近づけない。

そのうちに見失ってしまった。

「A、花火始まるから行こう」
「でも。あれ絶対玉森先輩だった」
「来られないって連絡きたんだろ？」

どーん、と大きな音が響いて空に花火が上がる。

次々に打ち上がる花火に、みんな空を見上げて立ち止まった。


人がきれて、一瞬ひらけた視界に、神社の境内に続く石段をのぼっていく玉森先輩を見つけた。

「先輩！」

「おい！A！」

走って追いかけたけど、さすがに草履は走りにくい。


火薬のにおい。

空がいろんな色に光ってる。



やっと石段をのぼりきったら、花火がちょうど見えないとこだから、全然人がいなかった。

先輩、なんでこんなとこに。

神社の裏にまわった私の目に飛び込んできたのは。



大崎先輩を抱きしめてる玉森先輩だった。



なんで。

だって、大崎先輩は北山先輩の彼女、だよね。


「何……してんだよ」

いつの間にか後ろにいた太輔が、低い声で言った。


その声に振り向いたのは、やっぱりまぎれもなく玉森先輩で。


「Aちゃん……」

「先輩、どうして」

あ、だめだ。

涙出る。

それ以上何も言えずに、後ろを向いて走り出す。

「A！待てよ！」

どーん、どーん、連続で花火が打ち上がる。

涙でカラフルな夜空がにじんだ。


花火の会場を出て闇雲に歩いてたら、全然知らないところまで来てしまった。

太輔は何も言わないで隣を歩いてくれてる。


ぽつん、って何かがほっぺたにあたった。

「雨降ってきた。A、帰ろう？」

ぽつぽつ、少しずつ雨足が強くなる。

「……先輩、好きな人がいる、って言ってたの。
大崎先輩のことだったんだ」

先輩に好きな人がいるって知った時もショックだった。

でもあれから少しずつ先輩のこと知って。

自分でも気づかないうちに。


もっともっと先輩のこと、好きになってた。


「あいつが誰を好きか知らないけど。
今日約束してたのはAだろ、最低だよ」

そうだよ。

先輩、いいよって言ったのに。

行こっか、って笑ったのに。


一緒に花火見るの、ずっとずっと楽しみにしてたのに。



涙が止まらなくて下を向いてたら、気づいたら太輔の腕の中だった。


「泣くなよ」


「太輔…離して」

「泣きやんだら離す」


ぶっきらぼうな口調とは裏腹に太輔の声は優しい。


雨が、強くなる。

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