先輩の、となり。

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靴紐をきゅって結び直して、ふうって息をはく。

緊張してきた。

陸上を辞めてから陸上と関わりがあるもの全部から離れて、軽いランニングすらしなかった。
アキレス腱を伸ばして準備運動。

「はーい、次の組用意してくださーい」

白線が引かれたスタートラインに立つ。


「位置について」

久しぶり、この感じ。

頭が真っ白になる、この感じ。

「用意」

ピストルの音が、パアン、って鳴ったら、私の足は勝手に動いてた。
たぶん体が覚えてた。

気づいたらもうゴールにいて、麻美が走って来てくれた。

「すごいじゃーん、ダントツだったよ？」

はあはあって息が切れる。

「……体、重い」

けど。

「走れたー……」

空を見上げたら、どこまでも青くてなんだかちょっと泣きそうになった。



クラスの席にもどると、クラスメイトが口々に声をかけてくれる。

「Aさんて陸上部だったの？」
「フォームきれいだね！」

「ありがとう、中学の時陸上部だったんだ」

「だからやる気まんまんだったんだね」

あ、それは違う理由です、はい。

麻美が笑ってる。




「次の種目は玉入れでーす、出場する選手は東ゲートに集合してください」

アナウンスが流れて、ぞろぞろ歩く列の中に玉森先輩もいた。

玉入れ出るんだ。

と思って見てたら、また目が合った。
わ、どうしよ。見過ぎた。

先輩がふらっと列から離れてこっちに向かって来た。

「Aちゃんめっちゃ速いね、走んの」

「え、あ、元陸上部なんです」

えー聞いてない、ずりーって笑ってる。

「俺も玉入れ頑張ろ」
「応援します！」
「え、応援してくれんの？」
「あ、そうだった。今日はできないんでした……」

あははってまた先輩が笑って、すれ違いながら私の頭にぽんって軽く手を置いてそのまま行ってしまった。

頭ぽんってされた。

頭ぽんって。

「えー！Aさんて玉森先輩と仲良いんだ！
いいなうらやましいー！」

目撃されたクラスメイトに言われたけど、私はまだ頭ぽんの衝撃から抜け出せずにいた。

「玉森先輩てめちゃくちゃモテるけど、確か他校に彼女いるんじゃなかった？」
「あ、そうなんだー。まあいるよね彼女」

クラスの子たちが話してるのが聞こえて、我に返る。


そうだ、山口先輩も言ってた。


もしかして彼女がいるなら、ライン教えてください！なんて言われて困ったんじゃ。


でも勝ったら教えるって言った時、別に嫌そうには見えなかったんだけど、な。

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