先輩の、となり。

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新しい制服の袖に腕を通すと、背筋が伸びた。
新しいブレザー、新しいリボン、新しいスカート、新しい紺色ソックス。

「お母さん、ちゃんと高校生に見える？」
「見える見える」
「ほんとに？変じゃない？」
「変じゃないない」

今日から高校生。
なんだろ、一気に大人に近づいたような気分。

「お母さん！」
「はい」
「行ってきます！」

玄関のドアを開けると、青い空に暖かい春の日差しが
降りそそいでいた。

「よし！」

「無駄に気合い入りすぎてねえ？」

駅に向かって歩き出そうとしたら、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「なんだ太輔」
「なんだとはなんだ」

幼なじみの藤ヶ谷太輔だった。
野球命だった太輔はてっきり野球が強い高校に行くと思ってたのに、蓋を開けてみれば同じ高校だったなんて、こういうのを腐れ縁ていうのだろう。

「だって今日から高校生だよ。
曲がり角でぶつかって恋をするかもしれないし、満員電車の中で恋をするかもしれない」
「漫画の読みすぎだろ、バカ」


「Aー！太輔ー！おはよ！」

同じ中学で一番仲の良かった麻美が走ってくる。
黒髪ストレートが似合うしっかり者の麻美は、自慢の親友。

「おはよ！」
「はよ」

3人で並んで歩きながら、麻美が言った。

「ねえねえ、3人でさ賭けない？」
「何を？」
「高校生になってしたいことを言い合って。誰が1番早くそれができるか賭けるの」

「いいね！やろやろ」
と即答した私に反して、太輔は
「えー……」
と、めんどくさそうだったけど、麻美は気にせず続けた。

「あ、じゃあ私からね。バイトで10万貯める！」
「現実的」
「すぐできそうじゃん」

「太輔は？」
「俺は……甲子園に行く」
「答えてるし」
「しかも真面目なやつ」
「うるせーな」

「じゃあAは？」
「私は……」

「恋する！」

私の答えに、麻美と太輔の声が重なる。

「ずっと言ってるもんね」
「聞き飽きたわ」

「だって中学は陸上しかしてなかったし。
漫画とかドラマみたいな恋！したいの！」

「じゃあ賭けに勝ったら何でも好きなものおごるってことで」
「まあAには勝てるわ、俺」
「は？太輔の甲子園よりは早く恋するし」
「どーだか」
「早くバイト探そうっと」


そんな会話をしながら歩いた数時間後、私は知ることになる。


恋はするものじゃなくて。


落ちるもの、だってこと。

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