先輩の、となり。

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「えーじゃあ今日のホームルームは、来月の体育祭について。
何の競技に出るか話し合ってもらいます」

先生がそう言うと、えー、とか、だるー、とかいう声があちこちから聞こえた。

「はい！」
「なんだ、Aどうした？」

「全部出たいんですけど！」


ざわざわしてたクラスが、一瞬しーん、となる。

「ちょっとちょっとA？どしたの？
何急にやる気見せてんの」

後ろから麻美が慌てて囁く。




「いやあ、えーと1人最高3種目って決まってたんじゃないかな。最低でも1種目は出ないとダメで」

「じゃあ、3種目出ます！なんか得点が高そうなやつ！」

てことで、リレーと百メートル走と障害物競争に出ることになった。

「全部ガチのやつじゃん」
「麻美は？何出るの？」
「玉入れとパン食い競争」
「死ぬ気で頑張って」
「えーゆるく楽しもうよ」

「ダメだよ、玉森先輩のラインがかかってるの」
「は？」
「玉森先輩のクラスに勝ったら教えてくれるんだって」
「そういうことか」

麻美が、ちょっと真剣な声になる。

「……てことは、A本気で走るの？」

「もちろん」

「足大丈夫なの？」

「大丈夫だよ、怪我はもう治ってるし。
別に走ること止められてるわけじゃないから」

「だったらいいけど」


麻美はちょっとまだ何か言いたげに口をとがらせた。


中学時代は陸上部で百メートルと二百メートルの選手だった。
走ることが大好きだった。

タイムが0.1秒でも0.01秒でも縮んだら嬉しくて。

どんなに辛い練習もピストルが鳴って、誰よりも速くゴールまで駆け抜ける瞬間のことを考えたら頑張れた。

だけど3年生になってすぐ足首を疲労骨折して、そこからフォームが崩れて怪我ばっかりするようになってしまった。

最後の大会の前にも靭帯を痛めてしまって、スタートラインにも立てないまま、私は陸上をやめた。


「太輔が聞いたらやめろって怒るんじゃない？
あの時誰よりも心配してたよ」



私が怪我ばっかりで落ち込んでた時も、リハビリがうまくいかなくてイライラしてた時も、太輔は側にいて励ましてくれた。

小さい頃から兄弟みたいに育ってきたから、そんなこと当たり前みたいに受け止めていたけど。

「太輔にはほんとに感謝してる。
私もどんな時でも太輔の一番の味方でいたいって思ってるよ」

「味方……ね」



「でも！これは負けられない戦いなの！」


先輩のラインをゲットするために！

絶対先輩のクラスに勝つ！

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