先輩の、となり。

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「そんな怒ることないじゃん……心配してくれてるのはわかるけど」
「別に怒ってない」
「怒ってるよ！別にもう陸上してるわけじゃないし、リレー走るくらい大丈夫だよ」

「怒ってない、怒ってるとしたら自分にだわ」

「……え？」

「こんなことになるならもっと早くに言っとくんだった」

太輔の目が急に伏し目がちになったから、座ったまま見上げたら。

急に腕が伸びて来て、ぎゅうって抱きしめられた。


「好きだ」


気づいたら目の前に太輔の肩があって、一瞬何が起こったのかわからなかった。


「ずっと前から、Aのことが好きだ」


遠くで、リレーの招集を知らせるアナウンスが鳴ってる。

「……太輔、あの」

太輔の腕から離れようともがいたけど、もっと腕に力を込められて動けなかった。

「わかってたよ。俺のこと幼なじみとしてしか見てないって。お前ずっと陸上のことしか考えてなかったし」

あきらめて体の力を抜く。

「だから振られて気まずくなるくらいなら、側にいられる方がいいって思ってた。
まさかこんな突然Aに好きな人ができるなんて、思ってもなくて」

「……私も思ってなかったよ」

「後悔した。振られても気まずくなってもちゃんと伝えてたら何か変わってたかもしれないのに」


太輔は家が近所で、お母さん同士が仲良くて。
ちっちゃい頃の写真は、お兄ちゃんより太輔とのツーショットが多いくらい、ずっと一緒に遊んでた。

お兄ちゃんと同じ野球チームだったし、ほんとに兄弟みたいだった。

太輔には何でも話せたし、太輔にとっての私もそうだと思ってた。


「……ごめん。私も太輔のこと好きだよ、大好きだし大事だけど」

「わかってる。先輩の好きとは違うんだろ」

黙って頷く。


「でも俺もまだ諦めるつもり、ないし」
「え？」
「だってまだ先輩と付き合ってるわけじゃないから」
「そうだけど。でも困る……」
　

「ちょっとは困れ。俺のことも男として見ろよ」


ガラッてドアが開いて、保健の先生が顔を覗かせたから、太輔が慌てて体を離した。

「あれ怪我したの？」
「はい、たぶん捻挫です」
「あーけっこう腫れてるね、あとで病院行く方がいいよ」


太輔は、あとお願いします、って言うと保健室を出て行った。


結局クラスに戻った頃にはリレーは終わってしまってて、太輔から事情を聞いた麻美が代わりに走ってくれていた。

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