簡単に 土方side ページ47
Aの右手に握られている、赤いリボン。光沢のある、けれど、古いものなのか、ところどころほつれていて、不器用ながらも手直しが施されている。
土「…それ、いつも付けてるよな」
「……えぇ」
それを見つめながら、大事に大事に、それを撫でた。その目は、いつの間にかまた、切なげな色を帯びていて、またしても俺はその目に不思議と引き込まれてしまう。
土「……大事なもんなのか」
……いつもの俺なら、こんな、相手の領域に踏み込むようなことは言わねぇ。それこそ捜査とかじゃねぇ限りは。だが、これも酒のせいなのか、はたまた酒のせいにしたいだけなのか、そんなことを口に出していた。Aは一瞬の間を置いてから、「えぇ」と。
「…………、好きな人から、貰った物なんです」
土「……」
小さく小さく、夜風に消されそうなほどの声で、そう言った。その口元は、優しげに綻んでいた。
………こういう夜に見せる、悲しげなものとはまた違う、まるで、……大切で、愛しい何かを見つめるかのような、柔らかなその表情に、俺はまた、どうしようもなく目を奪われてしまう。
ー・・その面は、文句のつけようもなく、綺麗だった。
そうだ。こういう時に見せる面が、何故か、……アイツに、嘗て俺が想いを寄せた奴に似ているように見えちまうのだ。
「…もう随分昔の話なんですけどね。それなのに、忘れられないままこんなもの持ち続けて、」
女々しい奴だと思いませんか、と。ソイツはクスクスと笑う。おかしそうに、だが、少し自嘲を含むような笑い声。
「……月の綺麗な日は、いつもこうして、ここで見上げてるんです。どうにも、月を見ると、アイツを思い出すから」
思い出に、浸ってるんですよ、と。手に持ったリボンをいじりながら、そう呟くように言う。
「いつまでもこのままじゃいけないって、思ってるんですけどね、やっぱり、そう簡単に忘れられたら、苦しくないですよね」
土「……、」
「………好きだったんですよ、ホントに」
アイツのこと、と。苦しそうに、愛しそうに、辛そうに、慈しむように、色々な感情が混ざりあったような、複雑な笑みを溢すAは、今まで見たこともないような面をしていた。
そう簡単に忘れられたら、苦しくない。
その気持ちは、俺も痛いほどに分かった。俺と同じにしちゃならねぇのは分かっているが、どうしてか、自分と重なってしまう。
俺はソイツに、何が言える訳でもなく、
土「……そうだな」
ただそれだけ、短い言葉を返した。
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ピピコ - マイさん» 天才なんてとんでもないです…!!このシリーズのヒロインは私自身もお気に入りです^^ そう言って頂けて嬉しいです!!ありがとうございます!これからも少しでもお楽しみ頂けると嬉しいです! (2017年7月5日 22時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
マイ(プロフ) - ピピコさん、天才です(^○^) 場面が思い浮かべやすいし、ヒロインさんもカッコいいし!続きも楽しく読ませていただきます(o^^o) (2017年7月4日 12時) (レス) id: ce3b99b0d3 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ - ミンティアさん» こちらもまたありがとうございます!ミンティアさんのコメントはとっても励みになってます!どう転んで何処に着地するのか、私も全く分かりませんが、楽しみにしていただけると嬉しいです! (2017年6月19日 19時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ミンティア - かなり遅れてしまいましたが続編おめでとうございます!他作品と共に此方の方も勝手に応援させて頂きます!どうやって物語が転ぶのか気になります。更新頑張ってください。 (2017年6月19日 17時) (レス) id: bb20e7ebdc (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ - ハルさん» わ、わわ…!?ま、まさかあのハルさんからコメントを頂けるとは…!!うわ…!なんか嬉しすぎて手ぇ震えて文字打てない…!!(笑)応援まで頂けるなんて…!ありがとうございます!!私もハルさんのこと応援してます!!! (2017年6月12日 20時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年6月3日 21時