爆弾 ページ12
立ち上がったAさんは白衣の裾を払うと、芥川を担いで此方を向いた。
「それじゃ、探偵社の皆に宜しく。あ、勿論太宰以外ね?」
由紀さんは仮面を白衣のポケットに押し込んだあと、ひらりと手を上げて芥川を担いでいく。
治療以外で注射器を使うのに慣れたAさんは、何となく見たくなかった。
※※
仮面をつけ直し、先程の車まで芥川をおぶる。自分より十数センチも背が高いのに、運ぶのがさほど苦ではない。女の自分でも持てるくらい、体重が軽すぎるのだ。医者としては気になる処で、それも太宰の指導の影響かと思うと彼奴への嫌悪感が増幅される。
「お帰りなさいませ」
《帰る。ビルまで宜しく》
「畏まりました」
運転手がエンジンを掛けるとほぼ同時に、ポケットの携帯が鳴った。判りやすい電話の印の上に、わたしがこの世で一番忌み嫌う相手の名が表示されている。
《……ごめん、やっぱり車、止めて》
ドアを開け、変声機の電源を切る。理由は単純、不要だからだ。
なるべくならば出たくない。かと云って、電話に出なければそいつはきっと職場にまでやってくる。自身の存在が、わたしの職場にとっての爆弾だと判っていながら。そういう相手だ。
ひとつ大きなため息をついて、それから観念したように携帯を耳に当てる。
≪やァA、久方ぶりだね。元気かい?≫
「耳元の不快感で吐き気がするよ。────太宰」
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作者名:夕野きする | 作者ホームページ:http://http://commu.nosv.org/p/asubook/
作成日時:2019年2月23日 15時