○ ページ6
「A、おはよう」
「おはよう、ヒロト」
風丸君の一件以来、俺は頻繁にAの部屋に通うようにしていた。
俺と一緒にいるとき、Aはいつも笑顔でいてくれるから。少しでも、彼女を笑わせられるならって。
今日もふんわりと笑うAに、俺も微笑む。この時間だけは、昔に戻ったようで心地いい。
カーペットに腰を下ろすと、彼女の座るソファから覗く、丸い影が目に入った。
いつもは無いサッカーボール。俺の視線に気付き、Aはそれを持ち上げる。
「…晴矢の、くれたボール。ちょっとだけ、してた」
「そっか…。ずっとサッカー、やってないもんね」
こっちに来てからは、バーンとしたのが最後か。何しろAはずっとこの部屋にいるし、俺達も練習回数が増えたから。
「ヒロト、サッカー…楽しい？」
そっとボールを抱きかかえると、目線を下に落として呟く。俺は暫く何も言えないで、彼女を見つめた。
俺がサッカーを始めたのは父さんのため。それから今まで、ボールを蹴り続ける理由は一つ。
＿＿さすが私の息子だ。サッカーの素質がある。
父さんが、俺を褒めてくれるから。また、褒めてもらいたくて…強くなりたくて、走り続けて。
俺はそれに満足していた。父さんが喜んでくれるから。
「…楽しいよ」
俺は確かにそう言った。なのにその声は、思った以上に小さくて、か細くて。
自分自身で驚いていると、「はいっ」という声と共に、サッカーボールが視界を埋める。白黒の向こうから、彼女が笑った。
「サッカー、やろ。ここで、大丈夫…から、しよう？」
「え、でも…」
俺はダメだと口を動かそうとする。父さんが、彼女をサッカーから遠ざけるように言ったから。
それを読み取ったかのように、彼女は言う。
「ここの部屋、父さん見ない。私を、嫌いだから…だから、大丈夫」
悲しそうに、笑いながら。
○
「ヒロトっ」
「はい、A…！」
「よい、しょっと！」
「ナイスパスっ」
机とソファを部屋の隅に追いやっても、勿論パス練習には足下が狭い。それでも、Aは楽しそうにパスを受けてくれた。
壁にボールをぶつけて、クッションに躓いてパスをミスしても、誰も怒らない。二人で、笑い合って。
まるで陽花戸中で見た彼らみたいに、俺はきっと、笑っていた。
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柑橘系 - すごく面白いです！これからも更新頑張ってください！！///>∀</// (2017年2月20日 19時) (
レス) id: 04654b2bed (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - アヤさん» コメントありがとうございます(^^)色々な作品を読んで、いつかこんな素敵な文章をかけるようになれたらと思っていたのですが、自分も少しは近づいているのでしょうか笑(°▽°)更新、頑張ります！ (2016年12月21日 20時) (レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
アヤ - この物語、すごく面白いです!文の書き方もとても魅力的で引き込まれてしまいます！他の方の作品と視点が違っていたり、内容がしっかりしていて、とにかく面白いです!更新頑張ってください！ (2016年12月20日 22時) (レス) id: 91f9d48bbf (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 白羅さん» すごい初歩的な間違い…！！すみません、報告ありがとうございますm(__)m修正させていただきました。 (2016年11月21日 10時) (レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
白羅(プロフ) - バーンの本名の漢字間違ってますよ〜、『春矢』ではなく『晴矢』ですよ〜 (2016年11月21日 10時) (レス) id: 4053be4a89 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：狩間篤花 | 作成日時：2016年11月3日 17時
