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「私は川上くんの未来の妨げにはなっていないですか」

ようやっと口を開いた彼女はそんなことを問いかけてくる。勿論、彼女が妨げになることはない。むしろ俺がきっと、彼女に無理を聞いてもらうことのほうが多くて。

「なってない」

未だ視線は向けられず、息を飲んでから告げる。

「じゃあ、私は、」
「もう、いいから」

気が付けば、こちらを向く彼女に口付けていた。いや、気が付けばなんて言い方よくない。ちゃんと、意図的に、彼女に理解してほしくて口付けた。
こんなメロドラマのようなことを、まして外でするような性格ではなかったはずなのだけれど。

言葉にして伝えるのはあまりに苦手だから、所謂愛情が伴う行動に、全部乗せて。不要な心配をする間、それにまつわる余計な事を言いそうな間だけでいいから、ちょっと黙って欲しくて。


柔らかい彼女の唇は少しの間固く結ばれていて、動揺が感じ取れた。
普段俺からしないからと言って、そんなに驚かなくてもいいと思うのだ。

その唇に、もう一度自分の唇を触れ合わせてみる。
息遣いや、タイミング、視線の運び。何から何まで経験の浅い俺がAさんに教えてもらったことだ。
この先一生、彼女にしか使う予定がない知識の片鱗。

静寂が耳に痛くて、直ぐに離れしまう。伏せていた目蓋を開き、互いの息遣いが感じられる程傍で彼女を見た。

「かわかみ、く…」
「もう、名前呼ばへんの」

彼女の声は微かに震えていた。
彼女に無理をさせたのかと思ったが、どうやら違うらしい。俺を挟んで行き来する、揺れた視線はそれだけ雄弁だった。

俺の責めるような言葉に彼女は小さく首を振る。
こういう時ばかり弱々しくなって、本当に狡い人だ。

「俺やっとAさんに追いついた気でいるんだけど。もう好きじゃないとか言い出す?」
「い、わない。けど…」

未だに判断決めかねているらしい、そんな口振りだった。
であれば、押すべきなのだ。今こそ。きっとそうでもしなきゃ、何年にも跨って俺は後悔するだろうから。

「じゃあ、ええやろ。そもそも、今更いないとか考えてないから」
「いないって?」
「この先の話。勝手に俺の未来を危惧してるみたいな言い方やったけど、こっちはそもそもAさんのいる前提やから」

そう告げる頃には、また彼女から視線だけを外していた。

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ぶっく。(プロフ) - どの作品も本当に素敵で、すべての話で心を動かされました!文章がとても綺麗……!最高の7名がそれぞれちがう時間を軸にした物語を展開されていて、本当にそれぞれちがう良さがありました。読んでいてとてもとても楽しかったです!ありがとうございました! (2020年4月8日 4時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 神作者の皆様、執筆お疲れ様でした!どれもこれも素敵な作品で、一つ更新される度に胸を躍らせていました。本当に素晴らしい作品を有難う御座いました…!! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
還元(プロフ) - いろさん» 読んでいただきありがとうございます。この後もまだまだ素晴らしい作品が続きますので、どうぞ最後までお付き合いください!コメントもありがとうございました! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 0ea79b5d61 (このIDを非表示/違反報告)
はるむにに(プロフ) - 神々の集まりですね、、本当すごいです(語彙力)次のお話も楽しみにしております! (2020年4月1日 22時) (レス) id: 33dd96b3e7 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - なんと…凄い神々が集まって作品をお造りになられたのですね、一話目から凄かったです。皆さんの見れるなんて…最高です。ありがとうございます。 (2020年4月1日 20時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:830 x他5人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2020年3月29日 15時

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